ソフトウェアの世界での自動化を語るうえで、RPAに加えてiPaaS (Integration Platform as a Service)という言葉も出てくることがある。最近は大企業のインフラとしてもクラウド (SaaS、PaaS、IaaS) が使われることが多くなってきているが、iPaaSはクラウドを中心に統合/連携するためのクラウドプラットフォームである。この記事では、iPaaSという用語とRPAとの関係を紐解いていく。
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実は古くからあるiPaaSという用語
iPaaSという言葉は意外と古くから使われており、実はRPAが流行ってくる2016年頃よりかなり前、少なくとも2011年にはGartnerのレポートに用語として登場する※1。iPaaSの製品として代表的なIFTTT (イフト)は2010年創業、Zapierは2011年創業、エンタープライズiPaaSの老舗Informaticaは2007年からデータ統合プラットフォームをクラウド上で提供し始めている※2。他にはWorkato、Boomi、MuleSoftなどが有名なプレーヤーである。
2007年から2010年頃は、まさに大手クラウドベンダーのクラウドサービスが開始した時期と重なっている。SaaS、PaaS、IaaSなどのクラウドサービスの台頭により、それらをクラウド上で統合/連携させるニーズも高まってきており、iPaaSが生まれた背景となっている。
iPaaSといってもいろいろな種類がある
一言でiPaaSと言ってもその目的にはいろいろなものが存在する。オンプレミスの世界でも、EAI、ETL、ESBなどいろいろな形式の統合ツールがあったが、iPaaSでも、目的として「データ統合」「アプリケーション統合」「API統合」「プロセス統合」などさまざまなものがある。展開方法もクラウド、オンプレミス、ハイブリッドがある。
また、ツールのUIについても、昔からのデータ統合ツールにあるようなデータベース管理ツール、フィールドマッピングツールのようなものに加えて、クラウドならではの手軽さから、バックエンドツールを扱うIT管理者だけではなく、現場ユーザーの開発者 (Citizen Developer)が扱えるような「レシピ型」と呼ばれる、ブラウザー上でビジュアルなフローを使って簡単にロジックを作れるツールも存在する。先ほど登場したIFTTTやZapierなどがこのカテゴリに属する。
まさに、iPaaSというカテゴリは一言では言い表せないほど多種多様である。データ連携やプロセス統合はIT管理者から現場ユーザーの開発者まで、ありとあらゆる場所でニーズがあるからであろう。それだけに、一般人にとってiPaaSというカテゴリはわかりにくいものとなっている。
iPaaSという用語はRPAと比べると流行っていない
ちなみに、iPaaSという概念がわかりにくいせいか、調査会社による市場規模はRPAに匹敵するほど大きい割に、Googleトレンドで比べてみるとわかるのだが、iPaaSという単語はRPAに比べてほとんどキーワードとして検索されていない。iPaaSは多様な概念を含むため、それぞれのサブカテゴリの単語で検索されている可能性もある。しかし、iPaaSという包括的な単語はあまり流行っていないようである。
RPAとiPaaSの使い分け
ところで、RPA (ロボティック・プロセス・オートメーション: Robotic Process Automation) はもともと「人間のデジタル行動を模倣するソフトウェアベースのロボット (ボット) で、繰り返しのタスクを自動化することで、ビジネスプロセスを加速するしくみ」という意味で使われるが、RPAも「データ統合」「アプリケーション統合」「API統合」「プロセス統合」を請け負うことがある。そうすると、RPAとiPaaSはどう違うのか、どう使い分ければいいのか、という話が出てくるだろう。
RPAは「画面操作の模倣」から入っているのに対し、iPaaSは「クラウド上でのデータ/アプリケーション/APIの連携/統合」から入っている。つまり切り口が全然違う。大まかに言って得意分野、不得意分野は以下のとおりである。
iPaaSの得意分野
- 主にAPIを通した連携を行うため、GUI変更の影響を受けない
- データの高速かつ安定した処理/連携が可能
- サーバ上で動かす製品が多く、管理はIT管理者が一括して行える
iPaaSの不得意分野
- APIが提供されていないしくみには触れられない
- 海外製が多いため、日本のクラウドサービスとの連携には不向き
- 製品によってはシステムの深い知識が必要になる
- オンプレミスとの連携が弱い
RPAの得意分野
- GUIの操作により連携を実現するため、ITの知識が深くなくても操作が可能
- APIがなくても連携が可能
- オンプレミスでもクラウドでも連携できる
RPAの不得意分野
- GUIの変更が頻繁に行われるシステムでは、連携が停止するリスクがある
- 大量のデータ連携を行うものは低速になりがちである
- クライアントPC上で動作する製品が多く、IT管理者にとっては管理の手間が発生することがある
RPAもiPaaSの機能を持ち、iPaaSもRPAの機能を持つ時代へ
ただ、上記の得意分野、不得意分野はあくまでもステレオタイプのもので、iPaaSもRPAもその概念を広げてきている。両者ともカテゴリが成熟してきておりカバーできる概念を広げてきているので、かぶっている機能もたくさん出てきている。たとえばUiPathやAutomation Anywhereは標準でREST APIもコールできるため、API連携を標準で行うことができ、RPAの弱点であったGUI依存をなくした実装も可能である。また、iPaaS製品もオンプレミスとのコネクタを用意したり、レシピ型のような簡単なUIでITの知識不要で構築が可能な仕組みも出してきている。また、Microsoft Power Automate (旧Microsoft Flow)のように、元々iPaaSであったがRPAの領域にも実装を広げ、両方をカバーするような製品も出てきている。
RPAもiPaaSも出発点は違えど同じ課題と目的を共有するようにもなってきており、この2つのカテゴリは今後もますます連携/統合されていく可能性があるだろう。
※1 Gartner Reference Model for Integration PaaS, 2011年6月
※2 Informatica Celebrates 10 years of Cloud, 2017年