業務の効率化、自動化対象業務の洗い出しをする際に、ボトルネックになることのひとつに「対象業務がみつからない」という項目がある。意外に思われるかもしれないが、特に規模の大きな組織になると意思決定者や自動化検討を行っている担当者が現場の従業員が具体的にどのような作業をしているかを把握していないことも多い。これは、自動化の検討を始める段階でも、自動化プロジェクトが進んで次のステップに行く段階でも起こりえる。特に日本では現場が強く、業務のやり方は現場で決めていることが多いため尚更である。
そのような場合に便利なのが、「現場の従業員が具体的にどのような作業をしているかを洗い出してくれる」ツールである。それが「プロセスマイニング」や「プロセスディスカバリ」といったツールである。これらはどういうツールなのだろうか。そして名前は似通っているが何を目指していて、どういうところが似ていて何が異なるのか。この記事ではこれらの疑問を紐解いていく。
プロセスマイニングとプロセスディスカバリに共通するゴール
この2つのツールに共通する目的として、「現場の従業員が行う作業を実際に追跡して可視化し、そこから課題を洗い出して改善する」ことが挙げられる。追跡の実際の方法は後で述べるが、作業の追跡と可視化ができるようになると、「作業のどの部分で時間がかかっているのか」「部門毎にばらばらに非効率に実施している作業は何か」「各部門に共通している作業は何か」「ボトルネックになっている業務は何か」「ルールやコンプライアンス違反の作業は何か」など、従業員からのヒアリングだけではわからなかった作業工程が具体的に明らかになる。ここから効率化すべき業務、優先度を高くすべき業務などを洗い出すことが容易となる。
プロセスマイニングとプロセスディスカバリの違い
一方、2つのツールにはアプローチとして異なる点もある。プロセスマイニングは、現場のユーザーが使うシステムのイベントログを追跡して行動を把握しようというやり方である。イベントログに「いつ」「どの文書に」「何をした」という3つの情報が格納されていれば情報を追跡できる。たとえばA001という番号のついた発注書が20XX年XX月XX日XX時XX分XX秒に申請され、YY分後に提出され…といったことが追跡できる。
プロセスディスカバリは現場のユーザーの画面操作を記録して行動を把握しようというやり方である。RPAで良く行われる画面操作のレコーディングに近いが、一連の画面操作を記録して、そこから行動を把握しようというやり方である。イベントログに比べると画面の非定型情報の解析が必要になり、それにはAIによる解析が必須となってくるため実装難易度は高い。
両者の特徴とメリット、デメリットは以下のとおりである。
プロセスマイニング
- バックエンドシステムに溜まるイベントログを解析して行動を把握
- ERP、CRM、ECMやSQL Server等のデータベースのイベントログが対象
- 定型データの解析
- 対象システム以外の行動は把握できない
- すでに自動化されたシステムの可視化と最適化が主目的
プロセスディスカバリ
- フロントエンドシステムでユーザーの画面操作を記録、解析して行動を把握
- 対象アプリケーションは問わない
- 非定型データの解析となり高度な技術が必要
- フロントエンドシステムにレコーダーが必要となる
- バックエンドシステムで発生していることはわからない
- ユーザーの画面操作の可視化により自動化対象操作を探すのが主目的
異なるアプローチであるが、RPAの構築にはどちらの方法も有益である。尚、プロセスディスカバリはタスクマイニングという単語で呼ばれることもある。
RPAベンダー各社の実装状況
日本でRPAソフトベンダーはグローバル、国産と数十種類が利用できるが、プロセスマイニングやプロセスディスカバリ機能を兼ね備えたソリューションはとても少ない。特に国産ソフトウェアでは皆無である。国産で一番シェアがあるWinActorはいずれの機能も提供しておらず、サードパーティツールの導入が必要となる。
UiPathは2019年にStepShot社とProcessGold社を買収し、2020年2月にプロセスディスカバリ機能をUiPath Explorer Expertとして、5月にプロセスマイニング機能をUiPath Process Miningとリブランドして日本で提供開始した。
BizRobo! はOEM提供元のKofaxで2019年4月に「オートマチックプロセスディスカバリ」機能が実装されており、反復的な操作を発見できるようになっているが、BizRobo!自身はあまりこの点を押していないように見える。
Automation Anywhereは2012年頃からProcess InVisionという画面記録ツールを提供していたが、2020年8月にRPA機能と統合されたDiscovery Botをプロセスディスカバリ機能として提供開始した。この機能は最終的に、必要なBotの自動生成まで行うのが特徴である。プロセスマイニング機能はCelonis等の外部ツールを利用する必要がある。
Blue Prismは2019年1月にリリースした無料で使えるオンラインツール「Process Discovery Tool」というものがあるが、これはいわゆるプロセスディスカバリ機能ではなくオンライン調査/評価ツールである。プロセスディスカバリ機能とプロセスマイニング機能は、MINIT等の外部ツールを利用する必要がある。
このように主要RPAソフトベンダー各社の対応状況は異なっている。国産ベンダーにはあまり動きはないが、グローバルベンダーは今後もしのぎを削ってこの分野に投資をしてくる可能性があり、注目される。