リモートワークに必須の5つのテクノロジーとは

2020/09/04 コラム



 現在、多くのオフィスワーカーが自宅やモバイルワークスペースからリモートで仕事をしている。「在宅勤務」は新型コロナ禍の前は一部のIT先進企業を中心にしか実施していなかったが、多くの企業が実際に在宅勤務をせざるを得ない状況に追い込まれて開始してみると、この勤務方法がいかに生産的であるかがすぐに認識された。

 現在はモバイル環境、デジタルアシスタントからホームオートメーションまで、さまざまなテクノロジーが生活の一部になるくらい浸透してきており、一般的な企業でも日常の仕事にクラウドをはじめとする多くの先進テクノロジーが取り入れられるようになってきた。実際に顔をあわせて仕事をするのと比べてまだまだ十分でない点が存在するにしても、これがリモートワークも可能としているのである。

 しかし、多くの組織ではまだリモートワークや事業継続対策を行うのに必要なテクノロジーについての認識がはっきりしていない。この記事では、どのようなテクノロジー要素が必要になるかについて解説する。

 

コミュニケーションと共同作業をどこでも実現するSaaS

 クラウドテクノロジーを使うことで、従業員はどこからでも作業でき、Web上のビジネスアプリケーションを介してオフィスにいるのと同じ情報にアクセスできるようになる。特に、サービスとしてのソフトウェア(SaaS)の形でクラウドを使用すると、企業は仕事で使うソフトウェアを、場所に関係なく従業員に展開することができる。

 従業員はクラウド上のコミュニケーションツールや共同作業ツールを使うことで、他の従業員との連携、共同作業、議論をオンラインで行い、チームプロジェクトを推進することができる。企業や組織はクラウドテクノロジーを活用することで、柔軟で効率的なチームを運営できるようになるのである。

 

ゼロトラストモデルを想定したセキュリティ

一方、セキュリティとコンプライアンスは、企業の重要な決定を行う際に経営陣が直面する最大の懸念のひとつである。クラウドを介して従業員がデータにアクセスすると同時に、部外者が同じデータにアクセスできてしまうと考えるかもしれない。 クラウド導入を躊躇っている多くの組織はここが懸念点となっているだろう。

 しかし、殆どのクラウドプロバイダーはセキュリティ確保に多額の投資を行っている。実は各組織がオンプレミスのインフラストラクチャ管理を個別に実施する以上のことを行っている。その結果、クラウドサービスプロバイダーは、ビジネスのセキュリティ強化の上で重要な役割を果たし、完全にリモートの従業員がいる場合でも、より安全で持続可能なビジネスを構築することができるのである。

 企業のファイアウォール内で運用しないと不安という管理者もいるだろう。しかし、近年はサイバー攻撃も巧妙になっており、標的型攻撃や内部犯行の広がりにより従来の境界防御型のセキュリティモデルでは既に対応が難しくなってきている。そのため最近は従来型のセキュリティ対策よりも「性悪説」に基づき、組織内ネットワークのアクセスであってもアクセス制御を厳密に行う「ゼロトラストモデル」の導入が進んでいる。クラウドの導入は、このゼロトラストモデルに従ったセキュリティ対策を行っていくことになる。

 

モビリティ環境

 クラウドベースのモバイルビジネスアプリケーションを使用することで、従業員は、オフィスの外からレポートの作成、フォームへの入力、注文書の作成、その他のさまざまなタスクを実行できるようになる。モバイルビジネスソリューションはビジネスインテリジェンスソフトウェアに直接接続することもできるため、遠隔から分析も行うことができ、正しい情報に基づいた意思決定を実施できるのは大きい。

 アクセスには、今やほぼすべての従業員が持っているスマートフォンや携帯デバイスが利用できる。これは、自宅で仕事をする従業員だけでなく、営業担当者、配達ドライバー、フィールド技術者など、常に一日中移動している従業員にとっても特に重要となる。

 また、モバイル環境の通信を支えるネットワーク環境の整備も必要である。企業からすると組織外のインフラ整備となるが、在宅勤務やリモートワークを推進する上では自宅のブロードバンド回線導入支援や高速モバイル回線の通信費用などが必要になってくるだろう。

 

紙のデジタライゼーション

 クラウド、セキュリティ、モバイルの導入によって可能になるのは、デジタルな作業である。一方、多くの企業や組織にはまだまだ紙で行っている業務が残っているだろう。紙が残っていると当然オフィスに出社する必要が出てくるため、リモートワークを完全に実現するには紙の業務を撤廃してデジタル化する必要がある。

 社内承認手続きや発注や受注などの業務はわりとオンライン化されている企業も多いかもしれないが、例えば人事関係の手続きや、行政との間の業務、取引相手がいる業務では、一部が紙で残っている場合もあるだろう。そのようなものは取引相手も含めたデジタル化、もしくは業界全体での取り組みも必要になってくる。

 デジタル化には「デジタイゼーション」と「デジタライゼーション」の2段階あり、前者はたとえば紙のようなアナログ情報を単純にスキャンしてPDF化してオンラインで見られるようにする段階、後者はさらにアナログ情報を対応するデジタル情報に置き換えて効率化できるようにすることである。たとえばハンコであればデジタル署名も活用したオンラインワークフローで置き換えることも含まれるだろう。

 直近ではまずデジタイゼーションでオンライン化することが最低の条件となるが、最終的にはすべてデジタルとして効率的に業務をまわせるのが望ましい。

 

遠隔からの自動化

 さらに、仕事内容によっては遠隔地から自律的に自動で、または人間が付き添いの元、ロボットに仕事をさせることもできるようになってきている。デジタルな作業については、システムインテグレーションやRobotic Process AutomationRPA)などの自動化テクノロジーを活用することができる。特に短時間で現場にて立ち上げが必要になる業務にはRPAが有効である。その際に有効なのがやはりクラウドテクノロジーであり、クラウド上から提供されるRPAであれば、遠隔からの操作や管理も安全に行うことができる。

 物理的な作業が必要になる作業のリモートワークはまだあまり現実的ではないが、仮想現実 (VR)や拡張現実 (AR) の技術により行えるようになる作業が出始めてきている。世の中に広がっていくにはまだまだ時間がかかるが、デジタル・ツイン(アナログな現実世界をデジタル上に再現した仮想世界)を使ってシミュレーションを行ったり、現実世界の遠隔地のロボットを操作したりといった技術も開発されてきている。

 直近においては、デジタルな作業はリモートワーク化でもクラウドとRPAの統合により、短期的に発生する単純作業も含めて対応が可能となる。これにより、担当の従業員は突発的な作業に悩まされずにリモートワークの生産性と効率を向上させ、やりがいがありバランスの取れた作業が可能になるだろう。