ロボティック・プロセス・オートメーション (Robotic Process Automation : RPA)の導入は、組織内で広く活用して効果を出すには、単純なRPAツール導入ではなく業務改善プロジェクトとして進める必要がある。その際に必要になってくるのが、組織内で中心となってRPAを推進する組織 (もしくは仮想組織)になる。これはRPA推進本部、またはCenter Of Excellence (COE)組織と呼ばれることがある。この記事では、COE組織の有用性、いくつかの異なった組織構成、運営方法について見て行くことにする。
Contents
COEとは何をする組織なのか
個人、もしくは少人数で自分のデスクトップPCを使ってRPAツールを導入するだけであれば、そこで閉じた運用をしていればよいのですが、RPAを使って複数組織で大きな効果を出していこうと考えたときには、組織内でRPA推進の音頭を取るCOE部門 (もしくは仮想組織)が必要になってくる。COE部門では以下のような役割を担うことが多い。
- RPA導入の推進: 実施計画の作成と推進、ROIの分析と成果の報告
- 要求管理: 対象業務の特定と優先順位付け
- ITインフラ: 環境の設計、構築、運用監視
- ロボットの開発: 開発手法の確立と運用
- ヘルプデスク: 各種ガイドラインとFAQ、ナレッジベース管理
- セキュリティ: 運用リスクの特定と管理、アクセス権限とパスワード管理、ログ監査、事業継続計画
- 教育と啓蒙: 製品の研究、社内啓蒙、社内研修
COE組織は、経営と現場の間に入って、RPAプロジェクトの成果がきちんと出るように現場を誘導し、経営陣に報告をする。
組織的なRPA導入にCOEはなぜ必要か
RPA導入を効果的に行うには、まず単純なRPAツールの導入ととらえず、RPAを導入する理由となる経営的理由を見据える必要がある。そして、これを実現するには経営、現場、ITの3つをきちんと理解して掌握する機能が必要となる。
この役割は経営企画部門やIT部門が担うこともあるが、これらの部門はそれぞれ経営、ITの知識を持った人材が中心であり、他の2つの知識は持っていないことが多い。経営、現場、ITの3つの課題を理解するには、これらの部門から人を集めて新しい部門を作るか、仮想チームを作るしかない。これがCOEという特別なしくみが必要な理由である。
実際、RPAの全社展開に成功した企業にヒアリングをすると、7割はRPAツール導入以外のところの課題や努力が大きいという。そしてこの7割の努力はCOE組織が中心となって先導していく必要があるのだ。
大企業におけるCOE組織の3つのモデル
COE組織の動き方、運営の仕方も、組織の体質や人材の配置によっていくつかのタイプに分かれる。ここでは主に3つの主要なタイプに分類してみた。
- 部門主導型: このモデルではロボットの開発は各現業部門が中心に行い、保守運用、インフラ管理、標準化、教育、支援も含めて実施する。多くの顧客で初期フェーズに満たれる組織運用である。良い点として、簡単に始められる、素早く成果を得られる点が挙げられる。受益者がオーナーシップを持ち、各部門が独立して推進できる。ただし、スキルセット、プロセス、標準が各部門で異なってくるというデメリットもある。
- COE主導型: このモデルでは、COEが組織内のサービスセンターとしてRPA推進の請負を行う。開発、運用、保守などをすべてCOEが行う。良い点はCOEがすべてを制御でき、同じ品質で展開が可能な事である。一方、この場合COEには開発、運用、保守をすべて請け負える程度の人数が必要になる。このCOE組織のキャパシティがRPA推進のボトルネックになることがあり、迅速な組織内展開の障害になることがある。
- 中間型: 部門主導型/COE主導型の両者のモデルの中間である。現業部門とCOE組織が役割分担を行うモデルである。ロボット開発は現場で行い、インフラ管理、標準化、ガバナンス、教育、支援はCOE組織で行う。良い点としてはCOE組織で一貫した制御やベストプラクティスの展開といったガバナンスを中心に取りつつ、現場の受益者がオーナーシップを持ちロボットの開発を行うため、現場の意欲や知見も生かしやすくなる。一方、役割分担があいまいになる可能性があるため、責任分界点は最初に明確にしておく必要がある。(ロボットが止まった場合は現場とCOE組織のどちらで面倒を見るのか、本番稼働をする前と後で責任範囲をどう定めるか、など) 中間型の場合は、COE組織を3~4人程度で回すことも可能となる。
また、主要な作業項目について、現業部門、COE組織の役割分担を表にすると以下の通りとなる。
作業項目 | 部門主導型 | 中間型 | COE主導型 |
RPA化要求 | 部門 | 部門 | 部門 |
見積 | 部門 | 部門 | COE組織 |
設計・開発・単体テスト | 部門 | 部門 | COE組織 |
UAT | 部門 | 部門 | 部門 |
コードレビュー | 部門 | COE組織 | COE組織 |
運用・保守 | 部門 | COE組織 | COE組織 |
コンプライアンス監査 | 部門 | COE組織 | COE組織 |
開発標準 | 部門 | COE組織 | COE組織 |
トレーニング | COE組織 | COE組織 | COE組織 |
バージョンアップ対応 | COE組織 | COE組織 | COE組織 |
ITインフラ管理 | COE組織 | COE組織 | COE組織 |
全社展開のスケールに必要な5つのこと
RPAを組織内の広範囲、全社的に展開をしていくためには、次の5点が重要とされている。
- 目標設定と“本線” 業務の自動化への集中: まず自動化をすることで得られる目標を何にするか (再配置する人員数、残業時間削減、ワークライフバランス向上、など)を決定する。そしてそれを実現するための本線 (v.s. 支線。例外的な業務) の業務を迅速に確定して、最初の成功を早期に獲得することに努める。
- アジャイルなプロセス: 時間をかけて大きなプロセスの完成品を目指すよりは、短時間で完成する小さな部品から作成し、できたものから本番投入して成果を早期に得るようにする。大きなプロセスは、部品にわけて少しずつ本番投入していく。”本線” に集中して例外処理は後回しにする。
- ツールとロボットの共通化: 使うRPAツールは共通のものにして、複数の部門や業務で繰り返し使うロボットは部品化を行い効率化する。頻繁に使われるものは、画面操作よりもAPIで実装するなど、より堅牢な実装方法を行う。インターネットで利用可能なパブリックマーケットプレイスも活用する。
- 関係者のスキルアップ: 関係者には必要なトレーニングをeラーニングを通じて迅速に実施するようにし、資格も取ってもらうようにする。情報のキャッチアップ、ノウハウの共有を行う仕組みを活発にする。
- ガバナンス: 定例会議をもって、目標に対するKPIの追跡、ロボット作成状況、作業進捗状況、課題と解決方法を共有しレビューを行う。ロボットの作成数や時間削減効果などのKPIを時系列グラフで目標と実績をプロットして進捗管理をすると、可視化されてわかりやすい。ロボット作成者のランキングなども管理しておくとよいだろう。
成功するために気を付けるべきポイント
以上のことを実施しながら、RPA導入を推進するCOE組織は以下のようなことに気を付けるとよいだろう。
- ボランティアでロボット開発者を募ることで、やる気を維持する。
- ロボット開発者が困っていることを集めて解決することでやる気になってもらう。
- ロボットの稼働状況の確認、管理を行い、状況を可視化、週次でチェックする。
- 社内布教活動を入念に行う。
- 開発者のライセンスを持っている人の作成済みロボット数と削減時間の管理を行い、部門ごとに比較ができるようにすることで競争意識を付ける。削減時間は、最初は微少だが進んでくると2%以上になってくる。
RPAの全社導入が成功するかどうかは、大部分はCOE組織の作り方と働きにかかっている。あらかじめ入念な計画と実施を行いたいところだ。