RPAによる時間効率化の目標はどれくらいが適切なの?

2020/06/27 コラム



 RPAの事例で良く出てくるのが「RPAを〇〇の業務に適用したことにより年間△△時間の業務を削減」という見出しである。この「年間△△時間」という数字、発表される事例によって50万時間などという巨大な数字から、74時間といった小さな数字まで、事例によって記載されている数字の大きさや桁は様々である。この記事では、この時間の算出について、基準となる尺度と、どれくらいの数字を目標にすべきかについて考えてみる。

 

従業員1人あたりの年間労働時間と費用を計算してみる

 RPAによって効率化される時間を計算するにあたり、それがどれくらいの人月に当たり、どれくらいの金銭的価値になるのかは、まず把握しておいた方が良い。組織内で従業員や派遣社員が働く場合の基準値をまず出してみることにしよう。まず、従業員/派遣社員が1年間に働く時間だが、年間の休日・祝日は120日前後で見るのが一般的であるので、年間の営業日を240とする。18時間労働だとすると、年間労働時間は1,920時間と計算される。まずはこの数字を覚えておこう。人間一人分の時間換算は年間1,920時間である。

 これを元に計算すると、50万時間というのは260人分、74時間は0.04人分 (もしくは単純に9日分)となる。これらの数字にどれくらいのインパクトがあるかについては、組織の人数に依存する。ちなみに、日経コンピュータが国内大企業90社に実施した調査※によると、8割は年5万時間以内、4割は年1万時間未満の削減効果を出しているというが、これらはそれぞれ26人分、5人分の仕事量である。

 また、削減時間を金額換算してみよう。これも、各組織の給与体系によって異なってくるが、仮に時給2,500円のコストがかかる派遣社員 (本人に支払われる給与に社会保険等の経費、派遣会社に支払われる手数料、オフィススペース使用料等の経費も含まれるものとする)で計算をすると、12万円、年間で480万円の費用となる。

 

最初に目指すべき目標は?その次の目標は?

 最初のステップとしての効率化目標を立てるときには、段階的な目標を立てるとよい。最初の36カ月程度で達成すべき最初の目標として、510%程度の効率化目標をまずは立ててみてはどうだろうか。特定の業務でどれだけ効率化が行えるかは、実際のところやってみないとわからないところもある。最終的には組織全体で25%以上の効率化が達成できるように動けるとよいだろう。そのためには、効率化する業務を選ぶ際に「組織内で多くの人が行っている業務」を選択することがポイントとなる。現場の担当者の意見を聞いて、効率化したい業務をかき集めてみるのも悪くはないが、その中から効率化できる効果が高いボリュームのある業務を最終的には選択していくことが重要である。

 

その数字は効果が出ているのか?RPAによってROIが出るのか?

 ここで最初の話に戻ってみよう。年間50万時間という数字、260人分の労働力に相当するのだが、対象となる組織の人数が5,000人未満であれば、そこそこ大きな成果が出ているといえるだろう。最低13億円程度の効率化効果が出ていることになる。また、年間1万時間であると年間5人分、2500万円程度の効果、対象組織が100名程度であればそこそこ効果が出ていると言えるだろう。ただし、1,000人の組織であると0.5%の効果となってしまう。対象となる組織の大きさを常に意識して考えてみることが重要である。

 また、主要なRPAは年間100200万円程度から導入でき、1台導入すると、稼働日は24時間の稼働率8割で稼働させるとすると、単純計算で人間の2.5倍の時間を働くことができる。単純作業は人間よりも作業速度が速いことを考えると、3倍以上は働くことが可能だ。100200万円といえば、前述の派遣社員が週に12日程度出勤するくらいの費用感である。RPAに頼むべき仕事が、人間で週に12日の労働に集約できるだけのボリュームがあるのであれば、RPAを導入したほうが同じ費用で3倍以上の仕事をこなせることになる。これらの費用感は、どれくらいの仕事量があればRPAを使ってみるのがいいのかの判断基準のひとつの参考になるだろう。

 

 

※ 日経コンピュータ 2019.10.31