金融機関に内製化を取り戻そう

2020/09/21 コラム



 日本の金融機関はATMを日本全国に展開しているが、その年間維持費は2兆円にもなるといわれている。このシステムを受注しているIT企業や傘下の企業にとっては、大きな収入源となっている。このATMに代表されるように、金融機関のITシステムはしくみ自体が競争力の源泉にもなり、1990年代後半からの規制緩和に伴う競争激化、不良債権処理のための営業利益確保とコア業務への集中、スケールメリットの必然性から、他の業界よりも内製でなく外注・アウトソーシングをしている割合が高いようだ。

 

効率化により必要に迫られる自動化

 日本の金融機関では、これまでコア業務に集中すべく、支店での事務業務を半分近くまで削減して本社に集中させたり、伝票を8割近く削減したりと大きな変革を行ってきている。メガバンクが新卒採用する人員も15%削減、あわせてメガバンク合計で年間3万人程度の人員削減を実施する。

 これだけの大改革を実施するには、業務のやり方の根本的な見直しとあわせて、見直し後にも残る事務業務も徹底的な効率化、自動化が求められる。ペーパーレス化によるデータ化の徹底はもちろん、隙間業務もRPAによるデジタル従業員の活用が求められるだろう。

 

規制と柔軟性の狭間: RPAの運用形態

 ところで、金融機関によるRPAの実装/運用であるが、大手SIerに長期にわたって外注されているケースが多くみられる。

 もちろん金融機関では、個人がデスクトップ上で動作させるデスクトップ型RPAを広く運用することは不正防止や監査の観点から推奨されない。年次監査でデスクトップ型RPAが使用停止となる事例も出てきている。

 しかし、完全に外注にしてしまうと、今までのシステム構築と同じになってしまい、本来RPAが持っている柔軟性、突発事項への対応ができなくなってしまう。今回の新型コロナ禍で発生した突発作業への対応が十分に対応できないで、結局現場の手作業による人海戦術に走ってしまったということでは、せっかくRPAを導入した意味がないであろう。

 海外の金融機関では、新型コロナ禍で発生した融資の処理と返済猶予の変更に100人で2年かかるような膨大な作業が必要だったのを、RPAを使ってたった4日で解決したという事例も出てきている。いざというときにはこのような運用も可能とするビジネス弾力性をRPAを使って確保しておく必要があるだろう。

 

内製化を実施するための体制づくりが必須

 落としどころとして望ましいのは、組織内部のリソースを使って内製化することを目指しつつ、RPAを統括する組織(Center Of Excellence : COE) を作り、運用方法を標準化するフレームワークを作成することである。このようにすることで、効率化が単なる現場の困りごと解消に終始せずに、組織全体の中長期目標ともリンクすることとなる。また、この組織にはIT部門からも参加をしてもらい、ITインフラ周りのことは解決をしてもらうことが望ましい。

 オフショア形式もオプションの一つではあるが、その場合は現場感をいかにオフショア側のメンバーと共有できるかがカギとなってくる。優先順位、品質などが現場の期待値と離れすぎないよう、密接なコミュニケーションを行いながら運用することが望ましい。場合によっては、主な拠点ごとにミニCOE組織を置いてハブ役になってもらう必要もあるだろう。

 

RPAツール選びもある程度重要

 このように、効率化をするための自動化や柔軟性の確保を行うには、7割くらいは組織の体制づくりをどう行うかに大きく左右される。しかし、あとの3割はRPAツールの持つ特徴によって運用可能な形態が異なってくる。

 たとえば、現在大手金融機関で利用されているRPAは大手SIerによる長期の外注が前提になっているところが多い。このようなケースでは開発ツールのようなRPAが好まれる傾向にある。ただし、そのようなRPAでは前述のような内製化による突発業務対応を行うような体制づくりは難しくなってくる。

 また、監査に適合するセキュリティ基準、パスワード管理、実行ログ・変更ログの管理と保持など、セキュリティ・コンプライアンスを徹底しようとすると、このような機能を持ったRPAツールが必要になってくる。

 

まとめ

 最終的には、どのような効率化と自動化、どれくらいの柔軟性とビジネス弾力性を持つのか、といった組織の業務に対する考え方、ビジョンによって、どういった実装をすべきかは変わってくる。そういう意味では、全体の設計図を書く立場にある責任者が、組織にあった方針を決め、それに従った体制づくり、ツール選びを行うことが求められるだろう。

 ただし、これからの時代は仮想通貨、キャッシュレス決済をはじめとする新しいビジネスモデルが登場したり、他業種からの新規参入があったりと、金融機関も先行きが不透明になりつつあり、かつ新型コロナへの対応で突発的な対応を迫られることも出てくる可能性があることを考えると、ビジネス弾力性は現場でも確保できる体制を取ることが望ましいだろう。その手段の一つとしてRPAを活用するのも手である。