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RPAはなぜこれほど注目されるようになったのか?~一般人の視点と技術者の視点から~

2021/03/10 コラム



 ここのところ再び話題になっているRPA (ロボティック・プロセス・オートメーション: Robotic Process Automation)。すべてのWindows 10ユーザーが追加費用なしで使えるようになるということで、OSについているペイントや電卓のような標準ツールになることから再び注目を集めているようだ。この機会にRPAのことを知ったという人もいると思うので、今一度、いままでRPAが注目されてきた経緯について振り返ってみたいと思う。

時代背景: 労働力が将来的に不足するという不安感

 文明の発達、社会の成熟が進む中で、近年世界的に課題になりつつあるのが少子高齢化である。その中でもとりわけ日本は世界に先駆けて超高齢化社会がやってくると予測されており、慢性的な働き手不足が心配されていた。そのため、働き方改革、仕事の効率化を通して一人当たりの労働生産性を向上させたり、働きやすい職場環境を作って労働者を採用しやすくしたりといった企業努力が行われ始めていた。

 職場で働いてくれる従業員が不足するという課題は、企業の事業継続にも直結する大問題である。従業員数は、その企業が決まった時間の中でどの程度の量のタスクをまわせるかにも大きくかかわってくる。その点、ロボティック・プロセス・オートメーション (RPA)は、従業員の替わりにロボット従業員がいれば、人間の従業員の代替になるところもあるのではないかという期待をうまく持たせることに成功したという側面があるだろう。

 

ロボットが仕事を代わりにやってくれるという近未来的なイメージ

 一方、コンピュータを使った自動化自体は昔から行われている手法であった。自動化をする業務の中核の部分はパッケージアプリケーションや自社開発のアプリケーションが使われた。中核部分の機能は、あらかじめ十分な期間を取ってパッケージベンダーまたは自社の中で仕様を決め、主にウォーターフォール型の開発である程度の時間をかけて開発し、それを本番環境に展開するという手法で自動化が行われた。

 しかし、中核システム同士のつなぎ目の部分や、システムと人とのインターフェイスの部分など、異質なものとの結合部分については、完全な自動化ができなかったり、情報の伝達に時間差ができたり、使い勝手が悪いなどの課題が出ることが多かった。また、紙業務などのアナログ部分が多くてそもそもシステム化が難しい業務も存在した。そのため、オフィスの中でも手作業による業務量が多く残る状態が続いていた。

 そんな中で出てきたRPAという概念は、「ロボットが業務を代わりにやってくれる」というイメージ戦略も功を奏して、それまでの自動化の手法とは少し違う印象を一般の人々にも与えた。コンピュータを使った通常の自動化手法は、専門用語も多くIT関係の人々にしか認知されていなかった事柄も多くあったが、「ロボットが業務をやってくれる」という比喩表現が、何か今までのコンピュータとは違う、漫画や映画に出てくる近未来的なイメージを一般の人々に抱かせ、自動化によるメリットをわかりやすく訴求できたことが、技術者だけでなく一般の人からもRPAに期待が集まった大きな要因のひとつだったように思われる。

 

技術者目線から見たRPAとは?

 他方、昔からコンピュータの自動化に携わってきた技術者からは、RPAに対して割と冷ややかな意見も聞かれた。つまり、前述のように、コンピュータによる自動化は昔からあるものであり、中核システムの間のつなぎも、PowerShellJavaScriptなどのOSに標準でついているスクリプティング言語や、フリーでダウンロードできるウェブスクレイピングといった類似のツールで昔から出来るものであると主張する技術者も少なくなかった。

 また、RPAで当初使われた技術自体も、実はそれほど目新しいものではなかった。画面を操作するために利用する仕組みは、15年以上も前から存在する、OSやアプリケーション上で障碍者向けのアクセシビリティを担保するための技術であり、それを応用して画面の中のボタンやテキストボックスの位置や属性情報を抽出するものであった。これらは、よく知っている技術者であれば似たようなものを先述のスクリプティング言語からアクセシビリティAPIを呼び出すことで操作することができた。

 

RPAの存在意義とは?

 ここまで読んで、「なんだ、RPAはその程度のものか」と思われる読者もいるかもしれない。それでは、RPAがこれほどにまで注目を集める意義とはいったい何であろうか。

 ひとつには、RPAがその訴求方法によって、技術者ではない「一般の人々」へのリーチに成功したことであろう。RPAという概念の説明のされ方が、一般の人の課題をよくとらえてそれに対してわかりやすく訴求できたということが挙げられる。

 さらに、ロボットを使えるのは技術者に限らず一般の人でも扱える、という訴求ポイントがあったのも大きいだろう。技術者であれば、昔からコンピュータの自動化を駆使できるのは当たり前であったが、それ以外の人々にとっては、たとえマシンが目の前にあったとしてもそれを使いこなすのは至難の業であった。それをカンタンな命令で使いこなせるとすれば、RPAに対する期待値は大きくなる。

 

RPAの現在の状況は?

 RPAは日本では2017年頃から大きく注目されはじめ、それから約2年をかけて、主要な大手企業は軒並み何らかの形でRPAの採用を行った。ただ、当時は一番シェアを取ったRPAの機能があまり成熟していなくてロボットの作成が一般の人々にとって思いのほか難しかったり、OCRとの連携がなかったために適用業務範囲が絞られたり、組織で広く使うための管理機能がついていなかったりして、「RPAに対する過度の期待」がはじける幻滅期のフェーズを体験した。

 ただし、その裏でRPAの普及自体は着々と進み、2021年頭の時点で年商50億円以上の企業で約半分の導入率まで進んできている※。2020年からAI-OCRの市場自体も急激に伸びる様相を見せており、紙業務とRPAを組み合わせた、デジタル化も含めた自動化で、RPAの業務適用可能範囲も広がってきている。加えて、RPA製品自体も様々なベンダーによる選択肢が生まれてきており、新型コロナ禍でクラウド型の利用も進み、リモートでも業務がまわる体制を構築する企業も増えてきている。

 さらに、20213月頭のマイクロソフトからの発表により、Windows 10のすべてのユーザーにMicrosoft Power Automate Desktop のRPAの基本的な機能が追加料金なしで解放されるということもあり、ここに来て再度話題になっている。

 1~2年前にRPAの導入を検討、または実際に行ってみて幻滅してやめてしまった方も、クラウド型RPAや情報のデジタル化など、最新の状況を確認してみる良いチャンスでもあるだろう。

 

 「RPA国内利用動向調査 2021」(2021年1月時点)MM総研、20212月発表