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理化学機器製造のリガクがRPA導入により年間2000時間以上を削減
3人の有志からはじまったRPA普及活動は全社展開へ

2022/01/24 スライダー, トピックス, 導入事例



組織の概要

1951年創業、X線分析・熱分析・X線非破壊検査機器の専門メーカーである株式会社リガク。創業以来、「科学技術の進歩を通して人類社会の発展に貢献する」という企業理念を掲げ、発展、成長を続けてきました。ライフサイエンス、半導体、ナノテクノロジー・新素材、環境・資源・エネルギー、安全・セキュリティなどの領域で、X線回折装置や半導体検査装置、非破壊検査装置などの理化学機器の製造、販売を手がけ、国内納入実績は累計で国内5万台以上、国内シェア70%を誇ります。今後も、高度情報化社会を支える半導体や、電子部品の開発・生産に貢献する半導体薄膜評価装置、各種環境用分析装置などの最先端の研究開発・生産分野に貢献していきます。

【課題】業務効率化により高付加価値業務への転換を実現する仕組みが課題

株式会社リガク山梨 山梨工場長 元 株式会社リガク 経営企画室の中村栄作氏は、デジタルトランスフォーメーション(DX)の重要性が認識される中で、「業務の自動化により、高付加価値業務への転換、人材の有効活用の仕組みを導入することが課題だった」と述べます。

そこで、社内の業務改革のツールとして、経営企画室にてRPAの導入可能性について検討を開始しました。

「2018年10月頃より、海外営業部門、サービス部門、総務部門の3部門の有志3人の担当者が集まり、検討が開始されました」(中村氏)。

株式会社リガク山梨 山梨工場長
元 株式会社リガク 経営企画室
中村 栄作 氏

業務カテゴリー別にRPAで自動化できそうな業務をリストアップした結果、31個の業務プロセスにRPAが適用でき、導入によって年間4407時間の工数削減を見込めることが分かりました。

中村氏自身「非常に効果的なツールだという認識を持った」ため、情シス部門にも加わってもらい、まずは3部門へのRPAの正式導入を2019年上期から進めることに合意しました。

【ソリューション】「クオリティ」「コスト」「デリバリー」の評価軸で総合力の高さが決め手

続いて、RPAツールの選定が開始されました。RPAツールの選定は、製造業らしく「クオリティ」「コスト」「デリバリー」の3つの評価軸で、機能や拡張性、費用、保守性といったポイントが比較検討されました。

その結果、3つの評価軸で最も総合点が高かったのがAutomation Anywhereでした。中村氏は「総合点は高かったものの、我々が最も重要だと考える『簡単にロボットを作れるか』という評価項目では競合ブランドに比べて得点が低かった」と話します。

そこで、実際に、導入先の3部門で「Automation Anywhere Enterprise」の評価版を使い、使い勝手の検証を行うことになりました。評価版の検証は約5ヵ月間にわたって行われました。中村氏は「検証の結果、使い方に慣れれば難しいと思われたスクリプトも簡単に扱えることが分かり、また、大規模なロボットであってもプログラムの流れが一画面内でわかりやすい点が使いやすいと感じた」と話します。

他のRPAツールでは、たとえばフローチャートを作ってプログラムの流れを可視化する方法がありましたが、「ロボットの規模が大きくなるとプログラム全体を表示するために画面が小さくなり、全体が見えなくなることが使いにくいと感じた」ということです。

こうした検証結果を受け、2019年下期に「Automation Anywhere Enterprise」の導入が正式に決定しました。

  • メリット
    • 年900件の該非判定の自動化や受注入力の自動化や500名分のX線検出データ保存の自動化を実現
    • 削減時間:年間2234時間
    • 導入済みの部門の割合:2021年に5部門に拡大

【詳細】3部門で25の定型業務の自動化に成功、削減時間は年間で2234時間にのぼる

RPA導入後、2019年下期における3部門の実績は次のとおりです。

  • 「Automation Anywhere Enterprise」により、3部門で25の定型業務の自動化に成功
  • これにより、年間で2234時間の工数削減に成功(海外営業1610時間、総務320時間、国内サービス313時間)

具体的な自動化に成功した業務例としては、海外事業部における「年900件の該非判定の自動化や受注入力の自動化」、総務部における「毎日680名分の時間外労働集計や、500名分のX線検出データ保存の自動化」、サービス部における「eラーニング進捗メールの受講者への自動配信、社用車の運行記録自動保管」などが挙げられます。

こうした実績を管掌役員へ報告し、2020年上期も活動の継続認可を得ました。中村氏によると、3部門で1年間使った実感として「定型業務の作業工数が大幅に削減され、たった数クリックで業務が完了するなど時間や工数が削減され、かつ、業務の成果は同じ」と、大きなインパクトを感じたということです。

特に、「Automation Anywhereにはロボットを決まったスケジュールで実行させるトリガー機能が備わっており、コンピューターで発生するイベントと連動させて自動実行させることで、業務をタイムリーに完全自動化させることができる」ということです。これにより、作業を忘れることがなくなりました。

また、「プログラムに間違いがなければ転記ミスはゼロ」「eラーニング受講者メール自動配信など、現業部門で今までやりたかったが、工数不足で実現できなかったことが実現できた」「使い出すと元には戻れない」「次はこれがRPA化できるのではないかと使った人からアイデアが湧いている」などといった現場の声が寄せられました。

こうした効果を実感することで、中村氏は全社に展開すればもっと効果が出るのではないかとの確信を得ました。

【結果】全社展開に向けた社内説明会を経て、188件の業務改善提案が寄せられた

1年間(2019年下期から2020年上期)の活動を経て、2020年下期には全社へのRPA導入に向けた社内説明会を開催ました。これは、コロナ禍を受けてWebで開催されたもので「国内関連会社も含め計3回行われた」と中村氏は話します。

「初心者にもわかるようにRPAの効果を説明し、3部門で作成したRPA動画と実績を説明しました。また、Automation Anywhere Enterpriseを実際に操作し、簡単にロボットを作れることを実演することや、アンケートを実施して説明会を受けた受講者の興味度や、RPAの作成に前向きな部署、人を把握することに努めました」(中村氏)。

その結果、3回の説明会には全社員の約4分の1にあたる235名が参加し、デモでは「従業員が使用する勤怠システムにログインし、有休使用一覧を取得、CSVに保存した後、メール送信する業務」をRPAで自動化する一連の操作が実演されました。

特に、記録やコマンドのドラッグ&ドロップで簡単にロボットが作成できる点に対する受講者の関心は高く、「参加者数、質問も多く説明会は成功したことが実感できた」と中村氏は話します。

アンケート結果は、未参加者24名を含む259名から回答を得ました。たとえば、「回答者の半分以上が受講前はRPAを知らなかったものの、説明会後、『興味がある』『どちらかというと興味がある』と回答した人は93%を占めた」ということです。

また、「回答者の76%が自身の業務がRPA化できると回答」「回答者の33%(85人)が、自身でRPAを作りたいと回答」などの結果を得ました。特に「自分でRPAを作りたい」と回答した人は「どちらかといえば作りたい」を含めると200名近い社員が前向きな回答を寄せており、中村氏はますます全社展開に確信を強めました。

「説明会後には、どういう業務がRPA化できそうかという質問に対して、188件の提案がありました。その中には、毎週提出している週報とシステムを連携させる業務や、伝票処理、品質保証のデータ集計作業、該非判定書の自動作成、特許公報番号に関連するURLの自動取得などがありました」(中村氏)。

そこで、全社展開のために、Automation Anywhere Enterpriseに代わるツールの再選定が行われました。折しも、「Automation Anywhere Enterpriseが2021年9月で保守終了し、クラウド版のAutomation360に移行することがアナウンスされた」ことから、2019年上期の段階で選定しなかった2社のツールを候補に加え、比較検討が行われたのです。

選定の結果、「競合ブランドの一つは、コストメリットは高かったもののロボット作成が難しいことがわかり、もう一つのブランドはロボット作成は簡単だったものの、クラウド版が高価だったことと、Automation Anywhere Enterpriseの特長であるトリガー機能がないことがネックとなった」ということです。

また、無償で利用できるAutomation 360の「Community Edition」を実際に利用し、RPAを作成して動作確認を行いました。その結果、「クラウド対応によって画面周りや変数などに細かい違いがあるものの、基本的な操作は同じだということが確認され、トリガー機能も継続して利用可能であることが確認できた」ことから、Automation 360を全社展開のRPAに決定しました。

【今後】2021年上期からは全社展開を担うRPA推進タスクが発足

経営層へRPA化全社展開を提案・承認を得て、2021年上期からはRPA推進タスクが発足。これまでの3部門に加え、改善効果が大きい2部門を加えた5部門で活動がスタートしました。

経営企画室から引き継がれた同タスクが中心となり、運用方針やルールの作成、トレーニングの実施を行い、各部門でRPA作成を行って月次の定例会で情報共有を行いながら運用を行っているところです。

「各部門のクリエイターの開発環境で作成されたRPAは、推進タスク事務局での審査を経て、問題なければ実行環境で公開されます」(中村氏)。

今後は、Automation Anywhere EnterpriseからAutomation 360への移行(マイグレーション)を進めながら、RPA適用業務を拡大し、RPA導入によって削減された定型業務の作業時間を有効活用するため、導入効果算出とともにグループ内の水平展開を進めていきます。

定型業務の自動化により、特にバックオフィス部門の業務効率化を実現してより高付加価値業務にシフトしていくことにより、人材を有効活用できる仕組みづくりを実現していきたい──、中村氏はこのように今後の抱負を述べてくれました。

  • 自動化されたプロセス
    • 海外営業部における該非判定や受注入力
    • 総務部における時間外労働集計、X線検出データ保存
    • サービス部におけるeラーニング進捗メールの自動配信など

業界

・製造業