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呉共済病院がRPA導入、5部門で68ロボットを内製で作成、運用
2024年の「医師の働き方改革」実現に向け業務効率化、業務改善に取り組む

2022/01/28 スライダー, トピックス, 導入事例



組織の概要

1904(明治37)年開院、広島県呉市にある呉共済病院は、国家公務員共済組合連合会の病院です。「高度・良質の医療」「最善の奉仕」「研鑽と協調」「地域医療の支援」を理念とし、地域医療支援病院、災害拠点病院の指定を受けています。標榜診療科は33診療科、令和2年度診療実績は、1日平均外来数が651名、1日平均入院数が303名、職員数は764名を擁しています。

【課題】働き方改革を実現するために業務効率化が課題だった

開院から117年あまりの歴史を有する呉共済病院。地域に根ざした医療を提供する同院では、医師や職員の時間外労働の増加という課題を抱えていました。同院 事務次長 経営企画室 課長の藤井 友広 氏は「時間外労働は増加傾向にあり、部署によって偏りがある状況だった」と述べます。

呉共済病院 事務次長
経営企画室 課長
藤井友広 氏

2024年4月には医師の働き方改革で「医師の時間外労働時間の上限規制」が適用されます。そのため、時間外労働の減少、部署間における業務量の格差是正、また、人材確保が困難になるなかで人材不足の課題を解消し、医師の働き方改革を実現していくことは喫緊の課題でした。

そこで、業務効率化や業務改善を実現していくために検討されたのが、RPA導入による業務の自動化、省力化の実現でした。

2019年3月から職員6名が国産RPAツールの研修を受け、トライアルを開始。RPA作成は原則、内製で職員が行う方針とし、同5月より、医事課にて本格導入されることとなりました。

 


【ソリューション】エラーが起きない安定稼働性と、スケジュール機能で円滑な稼働が可能な点が決め手

しかし、当初研修を受けた6名は「業務と兼務しながらのRPA作成を行うことが難しいなどの事情があった」このことから、当面は藤井氏がRPA作成を一手に担う体制でした。そのため、2019年10月に作成されたロボット数は18台、2020年9月が27台と「1年間でロボット数が10台くらいしか増えていない状況だった」と藤井氏は話します。

また、当時導入していたツールは「エラーが発生してRPAが止まるというケースがたびたび生じていた」そうです。基本的に、RPAは土日などの職員が少ないときに稼働するように作成されています。これが何らかのエラーで止まってしまうと業務処理自体も止まってしまい、「月曜日に出勤したときにその対応に追われることがしばしばあった」ということです。

また、スケジュールについても、従来のツールはWindowsのタスクを使って設定します。院内業務の中には、月末や月初など、処理するデータ量が多いときには処理時間が伸びてしまうものがありますが、「一つの業務の処理が完了するタイミングずれると、連携する別の業務をRPAで動かすことができなくなってしまう」(藤井氏)ため、最大処理時間にあわせてスケジュールを組む必要がありました。

こうしたスケジュールの余白は、積み重なるとスケジュールの無駄にもつながるため、別のRPAツールを検討することとし、そこで検討されたのがAutomation Anywhereでした。

電子カルテや、そのほかの業務システムがきちんと稼働するかなど、3日間ほど検証を行い、問題ないことを確認して、2021年4月、Automation Anywhereへ更新することが決定されました。藤井氏は、Automation Anywhere採用の決め手として、「作成スピードが速い」点と「エラーが起こりにくい」点を挙げました。現在もほとんどエラーが発生せずに安定稼働しているそうです。

また、スケジュール機能によって、円滑にスケジュールを設定、RPAを稼働させることができる点や、権限設定や機能の切り分け、ログイン情報の秘匿化など「セキュリティの高さ」も決め手となったということです。

  • メリット
    • 稼働中のロボット数:68ロボット
    • 導入済みの部門:4部門
    • 約30の旧ロボットからの移行期間:2か月

【詳細】毎日発生するような単純業務をRPA化することで適用業務を拡大

RPAの適用業務を拡大させる取り組みについて、藤井氏は「まず、院内の各部署にヒアリングを行った」と話します。しかし、RPAについては事前にデモも行い説明したものの「なかなか現場の人にはイメージを持ってもらいにくいのも事実」で、RPA化すべき業務がなかなか出てきませんでした。

そこで、ヒアリングの仕方を変え、「面倒で困っている仕事はないか?」「毎日行う定型業務はないか」などの聞き方をすることで、業務の棚卸しを進めることができました。

また、RPA化が可能かどうかの判断については、「単純作業、規則性のある業務」を見極めるために、一見すると規則性はないが、よく聞いてみると規則性がある仕事もあるため、「現場で業務内容を聞いてよく把握することには難しさもあった」ということです。

たとえば、医事課ではヒアリングの結果、「患者への請求業務や、レセプト(保険者への診療報酬の請求業務)の処理が月初に重複するため、RPA化したいというリクエストが出た」そうです。しかし、RPAを作成する側としては「月に1回のタイミングで発生する業務は、検証のタイミングが月1回であることに加え、エラーを改修してその確認をしたくても、次の業務発生のタイミングが1ヵ月後になる」ことから、非効率であることが分かりました。

そこで「単純な業務でいいから毎日発生する定型業務を出して欲しい」とリクエストすることにしたそうです。

そして、院内には約20の業務システムが稼働しているものの、業務そのものは紙を用いたアナログの業務が多いため「必要なデータがデジタル化できるか」といった問題にも直面しました。すなわちRPA化には業務の見直しも必要で、そこまで現場部門に求めることは難しいと藤井氏は話します。

同院ではRPA作成者は、藤井氏を含む経営企画室2名で担当しています。その理由として藤井氏は次のように説明しました。現場の職員は、業務内容は理解しているものの、「日常の業務が忙しい、またはRPAを理解、習熟するのも限界があることから非常に難しい」と判断しました。

一方、システム部門の担当者は、「現場の業務内容や意味まで理解するにはヒアリングに時間がかかるうえ、作成したロボットが増えると管理負荷が大きくなる」ことから、こちらも断念しました。

そして、外部委託で作成することも「エラー等の修正対応や、追加・変更時の対応に費用や時間がかかる」ことから院内の職員で運用していく方針となりました。

藤井氏は、Automation Anywhereへの移行に伴い、旧ツールで作成した約30台のロボットを「イチから作り直した」そうですが、約2ヵ月という短い期間だったものの「スムーズに作成、移行が完了することができた」と話します。これにより、移行に伴う業務への影響はなかったそうです。

【結果】新規システム導入に比べコスト不要、数ヵ月の期間短縮を実現した例も

2021年7月現在、同院で稼働するロボットは医事課、会計課、経営企画室、医療秘書科の4部門で68にのぼります。

多くのロボットは、データ出力、帳票出力、データ入力などの業務を自動化しています。たとえば、採血室の患者向けの「待受け画面」を作成するロボットは、コロナ対策で採血室が密にならないよう、入室する患者数を制限するため、入室できる患者の整理番号を待合室の画面に表示する業務を自動化するものです。

「カルテシステムにログイン」「再受情報CSV出力」「採血受付CSV出力」「データ突合」「画面表示」といった一連の業務について「新規に待受けシステムを導入予定中ですが、稼働までに数か月必要となるため、RPAで簡易的に作成し代用できた。また、院内の機材を利用しているため、費用は不要で、スピーディに作成、エラーなく稼働している状況だ」ということです。

藤井氏は、RPA導入による効果について「部署によって繁忙期と閑散期で時間の価値が違うため、削減時間だけで一概に定量化することは難しい」と述べます。

重要なことは「RPAによって自動化された時間を有効に使えているかどうか」であり、RPAの導入効果は「業務改善・効率化がどこまでできたか」を評価するのがよいと藤井氏は話しました。そのために、「業務フローを予めチャート化しておくと、自動化前後でどの程度、効果があるかが把握できる」と、効果検証のためには業務フローの可視化が有効であるとの持論を示しました。

【今後】適用業務を拡大し、作成、運用体制強化を実現したい

今後は、RPAの適用業務を職員課へも拡張していくそうです。また、業務の対象者も診療部や看護部、コメディカル(医師・看護師以外の医療従事者)へと拡張していきたいと藤井氏は話します。

そのためには、院内へのさらなるRPAの周知やRPA作成者の育成、および体制の整備が今後の課題になるそうです。RPAの適用業務や作成、運用管理の体制強化によって、さらなる業務効率化、業務改善を実現していきたいと藤井氏は締めくくりました。

自動化されたプロセス
・データ入出力
・帳票出力
などの定型業務

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