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宝塚市が新たな行財政経営実現にRPAを活用した業務改革に着手
17業務・年間1170時間の削減効果を見込む

2022/01/11 スライダー, 導入事例



組織の概要

兵庫県南東部に位置する宝塚市。大阪や神戸から電車で30分ほどの通勤圏にあり、人口約22万5千人を擁する施行時特例市です。同市は、2021年7月、「宝塚市行財政経営方針」を策定しました。

市民が日々の暮らしに豊かさを実感できる価値を創造するため、これからの時代にふさわしい行財政経営を実現する方針として「多様な主体との協働・共創」「時代の変化に適応し続けるための基盤づくり」など5項目が定められています。

RPAを活用した業務プロセス変革もこの方針に含まれ、今後もデジタル技術を活用した行財政経営のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進しています。

課題

職員減少による「年間約3万時間の労働力減少」への対応が課題

宝塚市における行財政課題は、まず国も警鐘を鳴らす「2040問題」の直面が挙げられます。すなわち世代間の不均衡が拡大し、高齢世代のさらなる高齢化と高齢世代の孤立化の進行などが懸念される社会課題です。

同市は周辺市よりもこの影響が大きいと見込まれ「生産年齢人口は5割を切り、65歳以上人口が4割を超えることが予測される」状況です。今後、市税収入の伸びは見込めないものの社会保障関連経費は増加し、職員数は、人口動態からシミュレーションして2027年から職員数が減少傾向となり「労働時間にして年間約3万時間の減少」が見込まれています。

同市では、業務改革への取り組みとして、2019年度よりコンサルティング事業者との共同研究を開始しました。その中で、今後本格的に業務改革に着手するためには、2040問題への対応としてRPAをはじめとするテクノロジーの活用による業務の効率化と省力化がテーマとして挙げられました。

しかし当時の宝塚市にはRPA導入、運用のノウハウもなく、上述したコンサルティング事業者をはじめとする外部事業者の支援が必要でした。そこで、共同研究の中で、業務改革ツールとしてRPAツールの選定を実施したとのことです。

さらに、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)がもたらした新たな日常への対応などにより、市の行財政経営をデジタル技術を用いて変革するDXの必要性が高まっています。そこで、人や地域を起点にサービスや価値を創出する、新たな行財政経営の仕組みを構築するために、まずは業務プロセスを変革していくことが第一歩とされました。

ソリューション

「Excel」との親和性とCSMの存在が決め手

RPAツールの選定は、操作性や管理面のわかりやすさに加え、特に重視されたのが「Excelとの親和性」でした。同市ではExcelで管理しているデータが多く、Excel操作を自動化するソフトウェアロボットの開発が、プログラミング知識や経験がなくても容易にできることが重要なポイントであったとのことです。

また、RPA導入、運用に際し、導入後のツールの価値を最大化し、導入による投資対効果を最大化するためにCSM(カスタマーサクセスマネージャー)の存在も決め手となり、これらのポイントが評価されAutomation Anywhereの採用(「Automation Anywhere Enterprise」)が決定されました。

さて、RPAツールの導入が決定したものの、同市の業務改革にはさらなる課題が顕在化しました。RPAに対する職員の認識はもちろんのこと、業務改革に対する各職員の意識もばらばらの状態であるという課題です。

そこで、同市では「2040問題」を背景にしたワークショップを幹部職員に対して実施しました。これにより、同市を取り巻く状況や、減りゆく職員数で行政サービスの質を担保していくため、BPR(Business Process Re-engineering)の重要性やその手段としてのRPAの必要性が共通認識として共有されたとのことです。

また、管理職など職位別にセミナーも並行して開催され、トップダウン、ボトムアップ双方で業務改革やそのツールとしてのRPAの必要性を意識づけする取り組みが継続されました。

RPAとの共存を前提に、業務フローを再構築し、自動化可能な業務を自動化するよう改革を進めていく体制が着々と整備されてきました。

  • メリット
    • 職員間に「業務が改革できる」との実感が生まれ自発的に業務改革を進める職員が増加した
    • 削減時間:年間1170時間
    • 導入済みの部門の割合:2020年度末時点で17業務にRPAを導入

詳細

「組織文化」の課題を乗りこえるため「目的」を明確に

実際に自動化のためのロボットの開発を、事業者の協力のもとで担当課自身で開発、導入を進めていく段階で直面したのが「組織文化」の問題です。

すなわち、次のような問題です。

  1. 個別最適から脱却できない
  2. 改革を組織風土が阻害する
  3. 担当者が業務改革の必要性は感じても行動に移せない

部や課の意識として、同じインプット、同じ意識であっても業務の進め方は独自のやり方で行っていることが多く、「本当にその仕事が必要かを問うと、いままでやっていたからという回答が返ってくる」など前例踏襲の意識があり、これが新たな業務手法への移行を阻んでいる側面がありました。

そこで、「目の前の問題に場当たり的に取り組んでいくのではなく、ありたい姿やめざすべき将来像を定め、ストーリー・ビジョンを持って取り組む」ことにしたとのことです。

特に、組織に根づいた文化や風土は短期的な取り組みでは変えることができません。長期的な視点で「目的」を明確にし、バックキャスティングに取り組みを進めることが重要だということです。

また、RPAは「業務改革のツールであって目的ではない」認識を持つことも重要です。RPAとの共存を前提にBPRを実施することが重要であって、単に既存の業務フローを自動化しても業務プロセス変革の真の効果は得られないということです。

つまり、「人がしなければならない業務」と「自動化が可能な業務」を整理し、業務フロー全体を見直して、自動化の手段としてRPAを活用していく進め方です。RPAは新たなツールであるからこそ、導入の本来の目的を見失うことなく、「業務プロセス改革という目的を達成するためのツールであることを忘れないことが重要だ」ということです。

なお、ツールとしての「Automation Anywhere Enterprise」は現在、「Automation360」への移行(マイグレーション)を進めようとしているところです。

結果

17業務にRPAを適用、削減時間は年間で1170時間が見込まれる

2020年度は「業務改革ロードマップの策定」に注力し、今後の同市の職員数減少、総労働時間数の推移を明らかにし、めざすべきゴールとして業務改革の必要性を具体化しました。

各部署の業務を「インプット」「プロセス」「アウトプット」に分類し、可視化、類型化を行いました。これにより、業務プロセスの特徴が明らかになり、業務改革の効果が可視化できたとのことです。

さらに、業務が類型化されることによって、自動化のモデルケースが明らかとなり、似たような業務に横展開できること、いつまでに、どこまで対応すべきかが職員間でイメージしやすくなったとのことです。

こうした取り組みによって、2020年度末時点で、市税収納業務や生活保護に関する業務、予算査定業務など17業務にRPAが導入され、年間で1170時間の削減効果が見込まれているとのことです。

組織文化としても、自発的に業務改革を進める職員が少しずつ増加し、これまでの実績によって「業務を変えることができる」との実感につながっているそうです。

今後

改革の成功体験を積み重ね、意識改革、組織改革につなげていく

今後は、「個別最適」から「全体最適」に向けBPRを本格化していくため、RPA導入も担当課を主体とした取り組みから組織横断的な取り組みに拡大していくそうです。

そのためには行政内部だけでなく、様々な事業主体と連携し取り組みを進めることが肝要であり、それぞれが得意とする知見や技術、ノウハウを持ち寄り、改革を進めることで成功体験を積み重ね、さらなる意識改革、組織改革の手応えをつかみたいということです。

宝塚市は、2021年7月、宝塚市行財政経営方針を策定しました。「多様な主体との協働・共創」「時代の変化に適応し続けるための基盤づくり」など5つの方針を定め、これからの時代に相応しい行財政経営を行うことで、市民の暮らしに豊かさを実感できる価値を創出していくとのことです。

業務プロセス変革は「時代の変化に適応し続けるための基盤づくり」に対応した取り組みで、これを進めることで、変革と協働による時代にふさわしい行財政経営の姿にトランスフォーメーションしていきたいとのことです。

  • 自動化されたプロセス
    • 市税収納業務
    • 生活保護に関する業務
    • 予算査定業務など

業界
・公共

*本記事の内容は、2021年12月時点での情報を元にしております。