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日立物流、働き方改革の一環でRPAを導入。専門組織を立ち上げて国内グループ会社13社・海外拠点への普及を推進

2020/06/22 スライダー, 導入事例



お話をおうかがいした方:

株式会社 日立物流 経営戦略本部 VC21センター 部長補佐 松本 和久 氏(中)
株式会社 日立物流 営業統括本部 IT戦略本部 部長補佐 荒井 章吾 氏(左)
日立物流ソフトウェア株式会社 システム事業統括本部 SCMイノベーション本部 産業第二システム部 第二G アシスタントマネージャ 大口 晃司 氏(右)

組織の概要

日立物流は2019年4月、中期経営計画「LOGISTEED2021」をスタートさせました。スマートロジスティクスを中核に据えながら、事業・業界を超えた協創領域の拡大を図ることでイノベーションを創出し、2021年度に売上高7,200億円の達成を目標としています。

課題

働き方改革を実行する手段としてRPAに注目

同社では、長時間労働の抑制や労働環境の改善を目指し、全社を挙げて業務現場の働き方改革に取り組んでいます。同社は働き方改革を実行するための具体的な手段としてRPA(Robotic Process Automation)に注目。RPAを中心的なツールに位置づけ、RPAの導入を前提とした業務プロセスの見直しを進めています。

RPAに注目したのは、2018年始めのこと。当時、営業統括本部 IT戦略本部で業務効率化を実現するためにRPAが使えるのではないかと検討し始めました。2018年にはIT戦略本部にRPAの導入・普及を推進する専門組織「RPAセンター」を立ち上げ、松本氏がRPAセンター長に着任して本格的な取り組みを開始。RPA導入の予算化、RPAツールの製品選定、利用ガイドラインの作成といった事前準備を進めながら、業務プロセスを俯瞰してBot(ロボット)による業務自動化の効果を探りました。

「人が手作業で行っていた業務を自動化することで、どれだけの業務効率化が図れるのか、まずは一部の部署で行われている定型的な見積書の発行といった業務プロセスにRPAツールをトライアル導入してみました。同時にRPAの利用ガイドラインやルール作りにも取り組み、組織的なRPA展開を本格化させました」(松本氏)

ソリューション

全社導入に最適なAutomation Anywhere Enterpriseを選定

トライアルにより、RPAの導入で一定の業務効率化の効果が得られると判断したRPAセンター(当時)では、続いて実際に導入する製品の選定作業に入りました。本番導入に向けた製品選定では、国内外製の有力なRPAツールを候補として挙げ、入念な比較検討を実施しました。

RPAツールの製品選定を担当した営業統括本部 IT戦略本部の荒井章吾氏(当時・RPAセンター 副センター長)は、次のように振り返ります。

「導入候補にしたRPAツール5製品について、当社の要件に合うかどうか一つずつ比較検討を重ねました。どの製品にも一長一短がありましたが、総合的に判断して当社が選定することにしたのが、Automation Anywhere Enterpriseでした」(荒井氏)
日立物流が比較検討した内容は、以下の要件でした。

・全社導入に最適なツールか
・EUC(エンドユーザーコンピューティング)に向いているか
・開発しやすく保守性に優れているか
・“野良Bot”を出さないように管理統制が可能か
・業務効率化を実現する十分な機能を備えているか
・導入・運用コストは妥当か
・国内にサポート体制が用意されているか
中でも選定の決め手になったのは「開発しやすく保守性に優れている点」「業務効率化を実現する十分な機能を備えている点」だったそうです。

「Automation Anywhere Enterpriseは開発しやすく保守性に優れ、幅広い業務の自動化に適用することができ、それが決め手となって導入を決定しました」(荒井氏)

詳細

各事業部門による開発の内製化も進む

Automation Anywhere Enterpriseの導入を決めた日立物流では、2018年度下半期の予算を確保し、2018年10月から本導入に向けたトライアルを開始しました。トライアルでは、各事業部門から「業務の困りごと」を募り、そこにRPAツールを適用してみるという方法がとられました。

「例えば、物流センターでは一部のパートナー社員に対し、前払いで給与を支払うという制度があります。毎日行う必要がある定型的な出退勤登録の業務は、担当者にとって大きな負担になっていました。まずはそうした部分にAutomation Anywhere EnterpriseのRPAを導入するところから始めました」(松本氏)

Botの開発については、外部に委託するとコストがかかるなど限界がくる可能性があり、かつRPAはプログラマーでなくとも開発可能だと認識していたため、当初はRPAセンターが担当し、徐々に各事業部門の現場で内製化していくようにしました。そうしたBot開発を担当するためにRPAセンターのメンバーとして加わったのが、日立物流ソフトウェアの大口晃司氏です。

「スクリプトを書くようなリスト方式でBotを開発できるAutomation Anywhere Enterpriseは、開発者にとって非常に使いやすいRPAツールです。現在は各事業部門で内製化を進めるために、ハンズオンセミナーを月1回以上開催するなど、教育・啓蒙活動にも取り組んでいます。すでにRPA化業務のヒアリングが可能なアンバサダーやBot開発を担当するパワーユーザーが多く育ってきています。」(大口氏)

ちなみに日立物流ではシステム基盤のクラウドシフトを進めており、すでに多くのシステムをオンプレミス環境からAmazon Web Services(AWS)のクラウド環境へ移行させています。同社が導入したAutomation Anywhere Enterpriseのサーバー環境はほとんどがAWS上で稼働しているほか、Botを実行するデスクトップ環境もAWSのクラウド上にあり、本事例の特徴的な部分になっています。

結果

月2200時間の削減。水平展開も活発化

こうして業務への適用が始まったAutomation Anywhere EnterpriseのBotは現在、200体稼働しており、具体的な効果が数字として表れ始めていると言います。(2020年2月時点)

「2018年11月にAutomation Anywhere Enterpriseを導入し、2020年2月現在、月2200時間に及ぶ業務時間が削減できています。また業務時間削減だけでなく、品質向上の面でも様々な効果を出し始めています。」(松本氏)

「海外現地法人の業績管理データをExcelに取り込んでデータ分析を行い、BI(Business Intelligence)ツールで可視化するという月次業務は、作業工数も多く、過去データを活用した分析にも時間を費やしていました。ここにBotを適用したところ、毎月の集計にはロボットを5時間稼働させるだけでよく、過去2年をさかのぼって分析することも容易にできるようになりました。さらに、ロボットの利点として、転記・入力ミスなどのヒューマンエラーが一切なくなるという質的効果も得られました。」(荒井氏)

こうした事例を社内報で紹介するなど、RPA導入を促進するためのプロモーション活動も実施した結果、RPAを導入したいという声が各部署で上がり、現在は日立物流本社、各事業拠点だけでなく、国内グループ会社13社、豪州・中国・アジアなどの海外拠点にも導入が広がっています。

「Automation Anywhere EnterpriseのBot開発にかかる期間は長くても2週間程度です。Bot自体は短時間で稼働できるので、その数をどんどん増やしているところです」(大口氏)

今後

2020年度末までに1,000Bot以上の稼働が目標

RPA導入・普及を推進するという業務を引き継いだVC21センター(バリューチェンジ&クリエーション)では、2020年度末までに1,000bot以上稼働させるという達成目標を掲げ、さまざまな活動に取り組んでいます。

「2019年度にはRPAと相性の良いIQ Botを導入しましたが、このほかにもRPAを適用できる業務のニーズはまだまだあります。それらを発掘するため、各事業拠点を巡回するキャラバン活動を展開する計画です。また、業務効率化の要望に応えるだけでなく、すでに稼働しているbotを水平展開して業務効率化を提案・支援するような活動も進めたいと考えています」(松本氏)

※本記事の内容は、2020年3月時点での情報を元にしております。