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アステラス製薬、グローバルで行われる医薬品安全性監視業務に適用。アウトソースコストの削減効果が期待されるRPA

2020/06/25 導入事例



組織の概要

 山之内製薬と藤沢薬品が2005年に合併して誕生したアステラス製薬株式会社は、「先端・信頼の医薬で、世界の人々の健康に貢献する」という経営理念のもと、革新的な医療ソリューションを提供し続けています。前立腺がん治療剤や過活動膀胱治療剤など、さまざまな治療剤を市場に供給しており、新薬開発への積極的な投資も継続的に実施。今では日本や米国、欧州など世界各国に研究拠点や販売拠点を設けており、製薬業界における国内屈指の企業としてグローバルにビジネスを展開しています。

課題

製薬会社に欠かせない業務への適用を目指す

 多くの企業がAIやIoTなど第4次産業革命のドライバとなる新たな技術に取り組み始めた2017年、話題の1つになっていたソリューションがRPAでした。「経営層から新たに登場する技術への取り組みについて問われる機会があるなかで、RPAに関する話題も取り上げられていました」と情報システム部 デジタルテクノロジーグループ 課長 上村 丈二氏は当時を振り返ります。当時からの業務基盤におけるアーキテクチャを担当し、部署ごとに個別最適化された仕組みを統一する活動を社内で推進していたこともあり、RPAに関しても社内での適用を上村氏が検討することになったのです。

 ただし同社の場合、以前からルーチン業務があれば社外にアウトソースするという考え方が中心にあり、社内に残っている“少量多品種”の業務に対してRPAを適用するのは難しい状況にあったのが実態でした。そんななかでもRPA適用を前向きに検討するべく現場の課題をヒアリングし、業務の洗い出しを行っていった上村氏。そこで大きく効果が期待できる業務として注目したのが、ファーマコビジランスと呼ばれる医薬品安全性監視に関する業務でした。「医薬品の臨床試験などに関する安全性情報を世界各国の当局に報告するCase processingと呼ばれる仕事がありますが、製薬会社の多くがこの業務をアウトソーシングしており、それなりに費用が掛かっていました。この業務にRPAを適用することで、大きな効果が期待できると考えたのです」と上村氏。

 ただし、製薬業界はER/ES指針などによって医薬品に関連した各種情報の電磁的記録、電子署名が厳格に定められており、たとえ技術的には問題ない業務であっても、安全性の観点からQuality Assurance(品質保証)を所管する部署との調整が必要になるなど、どうしても制約の多い業界の1つとなっています。「自動化による利便性と情報の確実性の担保がトレードオフの関係にあるため、RPAによって業務の自動化が可能かどうかの社内的な調整が重要です。今回のCase processingについては、うまく調整できた案件でした」と上村氏は説明します。

ソリューション

グローバルでの豊富な実績とセキュリティ・ガバナンス機能が魅力

 社内に展開する前にPoCを実施するべくRPAツール選定を進めるなかで注目したのが、Automation Anywhereが提供するRPAソリューションでした。「できるだけ短い期間でスタートさせたいという思いがあり、今回は市場の評価を前提に、製品を選ぶ時間をかけない方法を採用しました。Automation Anywhereを選んだのは、グローバルの実績を高く評価したためです」と上村氏は説明します。

 またロボットの権限管理や監査証跡ログを活用した監査対応など、しっかりとしたセキュリティおよびガバナンス環境が整備できる点も評価の1つに挙げています。「たとえシステム管理者のアカウントであっても、触ることのできる機能を制限するといった権限管理も可能です」。監査証跡のためのログ出力が可能な点も、同社が求めるガバナンス要件に適した仕組みだったのです。

 もちろん、世界中でビジネスを展開している同社だけに、日本で調達したツールを海外で利用することも多く、大前提としてグローバルで使えるものが不可欠でした。その意味でも、Automation Anywhereが誇るグローバルでの実績は同社の環境にも適したものだったのです。「製品選びの際には、社内からいろいろな意見が寄せられるため、社内的にソリューションプランと呼ぶ、いわゆる要件を詰めて製品選定していくプロセスが通常は必要です。しかし、今回はそのプロセスを経ずとも、Automation Anywhereで社内の合意を得ることができました。それだけグローバルでの知名度が高かったと思われます」と上村氏は評価します。

 そこで、Webサイトから請求書をダウンロードする仕組みや臨床試験の情報を世界中の製薬会社が情報共有している特定のサイトへ登録する業務など、具体的にPoCによるロボットの業務適用を試行。そのなかで、Automation Anywhereが同社に必要な要件を満たしたうえで効果が得られると判断、最終的に同社に展開するRPAとしてAutomation Anywhereが選ばれることになったのです。

詳細

安全性情報を含めた5つの業務にRPAを適用

 現在は、日々発生するファーマコビジランスにおけるCase processing業務をはじめ、米国各州の保険会社から寄せられる薬剤の使用状況に関する報告書を確認するRevenue operations業務など、それぞれの業務に対して5つのロボットが動いている状況にあり、使用頻度も業務によって異なっています。

 具体的な活用例を見ると、Case processingでは安全性情報に関する症例を世界各国の当局に報告するべく、発生した状況をケースとして登録するIntakeと呼ぶ業務があり、1週間で100ケースほどが登録されています。この登録された情報が過去の症例と合致したものがあるかどうか、またはデータが正しいかどうかといった判断をRPAが行っています。現状は5つのパートナーが扱う7製品に絞った範囲で運用しており、1日2回の頻度でロボットがチェックしています。
 またRevenue operationsにおいて、米国24州に展開する複数の保険会社から四半期ごとに薬の利用状況が通知されますが、この報告書が入手できるタイミングでメールが同社に届きます。このメールをトリガーにWebサイトから報告書をダウンロードしており、この業務全般をRPAが担っています。この報告書はRPAによって社内にある収益管理のシステムに投入されています。

 PoCの段階で開発した仕組みのうち、今でも運用が続けられているものが、国内に20サイトを超える拠点に設置された複合機の請求情報をベンダのWebサイトからダウンロードする業務へのRPA適用です。

 さらに、製品に関する変更管理を行う業務システムの情報をベースに、月単位で品質保証部門の担当者が監査の目的で変更履歴を可視化するルーチン業務があり、このシステムから情報をダウンロードする業務をRPAが担当。ほかにも、薬を製造する過程で発生する各種パラメータ情報を収集し、Excelのマクロを駆使して生産系のデータを可視化する業務の自動化にもRPAが活用されています。「情報が収集された段階でExcel内に行が追加されるため、特定のフォルダを日々RPAがチェックし、追加されている場合はマクロを動かすための指示をRPAが行っています。特定のフォルダを見て別の仕組みを動かすという業務はおそらくほかにもあるはずで、現場への提案も行いやすくなりました」と上村氏は評価します。

結果

作業時間は6分の1ほど、アウトソースのコスト削減効果を見込む

 現在は、ラウンド1として5つの業務にRPAを適用していますが、Case processingに関しては全てのケースで自動化が可能になれば、外注している業務のコスト削減効果が見込まれており、人手でのチェックでは1件あたり20分ほど時間を要しているものが、ロボットだと3分程度の時間でチェックできるようになっている状況です。「今回RPAを適用したもののなかには、大きな効果が得られないものも正直あります。それでも、仕事が続く前提で現場からの要望があれば、たとえ削減効果が小さくともRPA実装を進めていきたい。人がやらなくていいことはRPAに任せ、もっと創造的な仕事に人の時間を使ってもらえるような環境を整備していきたい」と上村氏は力説します。

 Automation Anywhereについては、「具体的にやりたい業務にきちんと適用できることが大事」と同部 ガバナンスグループ 若月 千裕氏は評価しています。また、厳格な権限管理などセキュリティに関しても配慮された仕組みであり、エンタープライズユースに耐えうるさまざまな機能を持っている点を高く評価しています。「ビジネスのインパクトが可視化できるBot Insightやデジタルワーカーとなるロボットがすぐに利用できるBot Storeなど、今後活用してみたい機能が豊富にあるのがありがたい」と上村氏。

 また、導入決定後にAutomation Anywhereが同社内で開催したハンズオンについても、「業務をアウトソースする風習が強い我々にとって、モノに触れる機会がなかなかありません。それでも、業務部門の要望を聞いてRPAが適用できるかどうかの判断が必要な場面もあるため、とても助かりました。具体的にどう動くのかがイメージできましたし、何でもできるわけではないことも知ることができたのは大きな収穫です」と若月氏は評価します。

今後

既存業務の範囲拡大と開発部門など新たな分野へのRPA展開を目指す

 今後については、ファーマコビジランスの領域の1つで、治験を行っている薬の安全性情報を当局や病院に提供するためのレポート作成業務への適用をはじめ、カリフォルニア州などまだ対応できていない地域で行われているRevenue operationsへのRPA適用など、現場からの要望に応じた業務への適用をラウンド2として検討していると語ります。すでに具体的な要望が複数挙がってきている開発部門への展開も具体的に検討しています。なお、AIの認識技術を搭載することで自動化の範囲を拡張する「IQ Bot」についても興味を持っており、さらに業務プロセスの可視化に向けた仕組みも検討したいと上村氏は語ります。

 IT投資が中心にある情報システム部としても、今後は手段として人やデジタルワーカーを決定できるような役割の組織への脱皮が必要だと上村氏は説きます。なお、社内におけるニーズ掘り起しについては、社内で実施することも含め、ビジネスパートナーとしてのAutomation Anywhereに期待していると語ります。「単にプロダクトを提供するだけでなく、課題解決に尽力いただけるパートナーとして、継続的な活動に期待しています」と最後に語っていただきました。

※本記事の内容は、2019年9月時点での情報を元にしております。