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ボッシュ、グローバルでのRPA標準としてAutomation Anywhereを選択、業務改善のツールとしてだけでなく、障害者の自己実現を強力に支援

2020/11/04 導入事例



お話をおうかがいした方(左から順に):

ボッシュ株式会社

BBMドメイン業務プロセス管理部プロセスイノベーション&権限管理 林 采泳 氏
BBMドメイン業務プロセス管理部プロセスイノベーション&権限管理 マネージャー 田中 剛 氏
人事部門 業務サポートセンター 三ツ井 宏太 氏
人事部門 業務サポートセンター長 税所 博 氏

 

■組織の概要

 世界トップクラスの自動車機器サプライヤーとしてグローバルに事業を展開、日本では1911年より事業を開始したボッシュ株式会社。自家用車や商用車、複合輸送サービスなどに活用される自動車関連機器を手掛けるモビリティ ソリューションズを中心に、産業機器テクノロジーやエネルギー・ビルディングテクノロジー、消費財という4つの事業領域を展開しており、革新的なソリューションを提供し続けています。

 

【課題】社内に複数のRPAが乱立、障害者支援に向けた新たな施策が必要に

 製造業であるボッシュグループでは、以前からデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)を積極的に推進しており、社外向けのソリューションとしてIoTによるDX化を強力に推進してきました。しかし、社内的な業務のデジタル化に向けたDX推進には課題を持っていたと語るのは、業務プロセス管理部 プロセスイノベーション&コーディネーションAIM マネージャー 田中 剛氏です。「顧客向けのDX化を支援するソリューションはさまざまな形で提供していましたが、遅れていた社内業務のデジタル化は大きな課題の1つだったのです」と語ります。そこでデジタル化の重要な施策の1つとして位置づけられたのがRPAでした。

 ただし、各事業部門でRPA導入は行われていたものの、個別に予算を組んで異なるRPAツールが導入されており、グループ全体で統一された環境ではなかったのが実態でした。「会社としてRPAが施策として注目されたものの、その段階で社内的には複数のRPAが導入されていました。部門によっては十分に管理されておらず、メンテナンスもままならない状況にあったのです」と田中氏は当時の状況を振り返ります。

 一方で、積極的に障害者雇用を支援するために設置された専任組織「業務サポートセンター(C/HRR-BSCJP)」の責任者である人事部門 業務サポートセンター長 税所 博氏も、職業リハビリテーションを通じて自己実現を支援する環境づくりに関して、より高度なスキルセットを模索していました。実は同社では、ダイバーシティを「財産であり、成功するための要素」として重視しており、人種や性別、年齢、国籍、宗教、障害、性自認など、すべての他者を受け入れ、機会均等と多様性の尊重を積極的に推進しています。そこで、精神発達障害のスタッフ「B-associate(s)」(以下、B-a)に絞って複数のロケーションで非定型業務に従事してもらうなど、会社における存在感を日進月歩で増していますが、高いポテンシャルを持つB-aに対して、いっそう難易度および会社への貢献度が高い仕事に挑戦できる環境を整備したいと考えていたと税所氏は説明します。「雇用している精神・発達障害者は、私の経験からも高いポテンシャルを持っている人が多い。しかし一般的に障害者が請け負う業務は、庶務的な業務(作業)や事務補助的なものが多くなりがちです。職業リハビリテーションを通じて自己実現を支援していくためにも、目に見えるアウトプット・アウトカムを創造できる取り組みを模索していました。そこで注目したのがRPAだったのです」と税所氏は語ります。

 税所氏がRPAに注目したのは、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が主催する「職業リハビリテーション研究・実践発表会」にて、他者の障害者雇用事例として、RPAに関する取り組みが紹介されていたことがきっかけでした。「ちょうどボッシュグループ全体としてRPAが重点課題の1つに挙げられていたことで、業務サポートセンターとしてRPA推進に関わることで会社への貢献度を高めることができ、ひいては障害者雇用の認知や理解が深まっていくことができるのではと考えたのです」と税所氏。

 

【ソリューション】活用の裾野が広がることで、グローバルでRPA標準として選択

 社内業務におけるDX推進に向けて、グループとして利用する標準的なRPAを選択するべく各部門と調整を進めるなかで、最終的には本社管理部門が推していたAutomation Anywhereが選択されることになるのです。「ドイツ本社にて統一的なRPAとして選ばれたのがAutomation Anywhereでした。私もAutomation Anywhereを推進していましたが、他のRPAと比べて使い勝手がいいという印象です。他社の製品は.NET Framework開発ツールのような作りで、現場のユーザーに教育していくことを考えると展開は難しい。一方でAutomation Anywhereはシンプルな構造で、まるで子ども向けプログラミング言語のScratchを扱うように開発が進められそうな印象でした」と田中氏。

 Automation Anywhereであれば、ユーザー側ですべて作らずとも、ある程度作り込んで田中氏のもとに持ち込んでもらい、スペシャリストに引き継いで開発していくことも可能だと判断。「すべて我々の方で開発することも可能ですが、我々だけで受託開発を進めていくと、1か月あたり数個ほどしかBot作成できない可能性も。RPAを社内に広めていくには、ユーザー部門でも扱えるものが理想だと考えたのです」。その環境が具現化するツールとしてAutomation Anywhereに注目したのです。

 その後、税所氏が業務サポートセンターとしてRPA推進に関わることを決断したタイミングで、田中氏と接点を持つ機会を得ることに。「ここで紹介されたのが、Automation Anywhereでした。グループとしてAutomation Anywhereを使っていくことが方針として決定していたため、我々もAutomation Anywhereを軸にRPAに取り組むことになったのです」と税所氏は語ります。

 

【詳細】プログラム開発未経験でもRPA開発可能な環境整備に成功

 現在は、ボッシュグループ全体としてAutomation Anywhereを標準的なRPAツールとして統一し、日本の活動については田中氏がRPAコアチームとしてRPA推進活動を展開しています。ライセンス費用を最適化するべく、他社RPAツールにて作成されたBotAutomation Anywhereに置き換える活動も行っている状況で、B-a含めて30名ほどのメンバーがAutomation Anywhereによる開発が可能な環境になっています。「Bot開発に関する発注や要望は一元的に田中がとりまとめ、コアチームにも所属している三ツ井と私が協議して、BSC内で最適なメンバーをアサインする形で運用しています」と税所氏は説明します。開発依頼は、Microsoft SharePoint上に用意された質問箱から寄せられる要望を精査したうえでヒアリングを実施していくボトムアップ型と、各部門のプロセスエキスパートチーム内の会議内でプロセス改善を進めるトップダウン型のアプローチで進められています。

 Automation Anywhereそのものの管理やライセンス契約、監査対応などは、グローバルでアウトソーシングを請け負うボッシュサービスソリューションズが一括で行っており、日本側は月額費用にてライセンスを借り受けることで開発に集中できる環境です。そのため、Bot管理を行うControl Roomはドイツ本社側のデータセンターにサーバホスティングしており、日本のシステム部門および業務サポートセンターに所属するB-aBot開発を行う場合は、日本が展開するデータセンター内のオンプレミス環境にあるシトリックスのVDIデスクトップ上に展開した開発用のBot Creatorや実行環境のBot Runnerを利用しています。

 業務サポートセンターにてRPA開発を行うB-a10名ほどにまで広がっていますが、1名を除いてプログラム開発経験のあるメンバーはいませんでした。そのため、プログラムの基礎的な考え方から勉強会を開催し、用意したフォーラム内で情報交換を行うといった形でメンバー全体の習熟度向上を図っています。「RPAに取り組むタイミングで、eラーニングを活用して認定試験であるAutomation Anywhere Certified Advanced RPA Professionalの資格は、20人以上のB-aと5人のジョブコーチおよびマネージャーの税所が取得しています。今でも定期的な勉強会を通じて必要な知識を互いに学びあっています」と語るのは、人事部門 業務サポートセンター 三ツ井 宏太氏です。

 なお、プログラム開発未経験の三ツ井氏が作成したBotでいえば、基幹システムなどからの所定のデータをダウンロードしたうえで加工するBotをはじめ、Excel内の出庫データを基幹システムから抽出して書き出すBot、中途入社のメンバーへの定期アンケート送付および結果の自動集計Botなど、Botの種類は多岐にわたっています。Botの開発は、すでに日本では40を超えるまでに広がっており、そのうち業務サポートセンターでは6つほどのBot開発をすでに終えている状況です。

 

【結果】月単位で784時間の業務改善効果を生む

 日本のボッシュでは、昨年と比較してサブのBotまで含めてBot開発量が3倍ほどに増えており、すでに月単位で774時間もの改善につながっている状況です。RPA開発については多くのB-aが前向きに取り組んでおり、三ツ井氏が所属する横浜のエリアでも当初から半数以上のメンバーが参加を希望するほど。「業務の効率化によって会社に大きく貢献できるRPAだけに、プログラム経験がないなかでも参加したいと志願する方が当初から多くいました。自己実現に向けた有効な手段の1つだと言えます」と税所氏は評価します。

 特に、通常の受注業務を行いながら自主的にBot開発の時間を確保し、締め切りを意識しつつ、業務改善の方法を調査するなど、新たな業務領域・スキルを自ら開拓していく推進力を養うことにつながっています。「業務をしっかりととらえたうえで、どう改善につながるのか、それをどうプログラムに落としていくのかなど、意識的に創意工夫していくプロセスはB-aのビジネスパーソンとしての成長に昇華されています。それがいっそうのモチベーション向上にもつながっており、ポジティブなスパイラルが展開されています」と税所氏は評価します。現場のB-aでも、既存業務の改善が数字に表れるアウトプット・アウトカムとして実感できるため、会社への貢献度が可視化され、やりがいの醸成につながっています。「できなかったことができるようになる面白さが体験できるなど、自分の可能性の広がりをB-aそれぞれが感じることができるようになったのは大きい」と三ツ井氏は評価します。

 Automation Anywhereについては、Excelで利用するような関数が活用できるなど、直感的に利用しやすいとB-aからも好評です。「どんなツールでも慣れは必要ですが、プログラム言語を知らなくても開発できるのはAutomation Anywhereの強みであり、我々のような素人でも手を出しやすい。不明な部分があればeラーニングのトレーニングなどから解消していくことも。現場の改善活動という実践的なところに役立てることができるのは大きい」と三ツ井氏は評価します。

 

【今後】トップダウン型プロセスを推進しながら、RPA開発の拡大を目指す

 現状は現場からのボトムアップでの依頼が中心ですが、すでに現場のトップやプロセスエキスパートによるプロセスマイニングを実施したサンプルシッピングのオートメーション化事例も出ているなど、今後はトップダウン型のプロセス改善を通じて、さらに大きな活動に広げていきたいと語ります。「経営層にも許可を得たところですが、各部門の事業部長にて計画を立て、具体的なターゲットを決めたうえでRPAによる自動化を進めていくような活動を加速していきたい」とプロセスインテグレーション部 プロセスイノベーション&コーディネーション AIM 林 采泳氏は力説します。日本としても、しっかりと効果を示していくことを意識したいと田中氏。「やるからにはグローバルでナンバーワンになるくらい、Botを制作して効果を示していきたい」と意欲的に語ります。そして、RPAを使った推進モデルを横展開していきながら、RPAだけに限定されないオートメーション化を社内に広めていきたい考えです。

 業務サポートセンターにおけるBot開発については、今後もさらに拡大していきたいと語ります。「開発を進めるためにも人を採用する必要がありますが、高い好奇心や向上心をもって取り組んでくれるメンバーが数多くいます。RPAを推進する立場としてはまさに渡りに船で、とても感謝しています」と田中氏。これからは、具体的な目標設定も行っていく予定です。「まだ慣れていないメンバーもいるため、チームで開発しているケースもありますが、B-aそれぞれのスキルも考慮しながら、年内には13Botほどの開発を目指していきたい」と田中氏。

 業務サポートセンターの現場では、Bot開発業務の延長線上にB-a自身の自己実現目標と重ね合わせる者や、高度な開発を専任で任せられるメンバーも出てきています。「社内で業務サポートセンターの役割を広げていきながら、B-aのさらなる成長につながるような活動を続けていきたい」と税所氏は力説します。現状はRPA開発の依頼を受けている状況ですが、B-a側からRPA開発に係る「社内提案営業」活動にもつなげていきたいと語ります。「Bot開発に関わったことで、業務改善や業務改革の意識がB-aにも芽生えてきています。自ら既存業務を見直していくといった“PDCA”あるいは“カイゼン”の意識と行動が自ずと身についていくのではないでしょうか」と税所氏は期待を寄せています。実際に開発を行っている三ツ井氏も「年内の開発目標をクリアしていきながら、自発的にBotにしていける業務を見つけていくなど、業務サポートセンターから社内に業務改善を発信していけるような環境を作っていきたい」と語ります。

 なお、現状はAutomation Anywhere Enterpriseだけの利用ですが、グローバルでは紙の帳票から任意のデータを抽出可能なAI-OCR機能を持つIQ Botなどのライセンスも所有しており、日本でも活用していきたいと語ります。「倉庫作業など物流の現場ではいまだに多くの紙が利用されており、PDFにてスキャンしたうえでデータ化している面も。IQ Botなどを利用して、現場のデジタル化をさらに効率的に支援できる環境を整備したい」と田中氏は期待を寄せています。

 

自動化されたプロセス

  • 試作部品のシッピングプロセスにおけるシステム側の作業
  • 各社カスタマーポータルサイトからの受注確定情報のダウンロード
  • 基幹システムからのデータダウンロードおよび加工
  • Excel内の出庫データを基幹システムから抽出して書き出し
  • 中途入社のメンバーへの定期アンケート送付および結果の自動集計

 

業界

  • 自動車、輸送機器業界

※本記事の内容は、2020年10月時点での情報を元にしております。