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渋谷区がRPAを導入、60業務で年間3900時間の削減効果 「真のデジタル区役所」実現に向け現場職員による内製化体制を確立

2022/10/21 スライダー, 導入事例



組織の概要

渋谷区では、2019年1月に区役所庁舎を新庁舎に移転したのを機に庁内のデジタル基盤を刷新、併せて、紙ベースの業務フローをデジタル化し、業務効率化によるさらなる行政サービスの質向上をめざすDXを推進してきました。そのためのツールの一つとして、2020年10月にRPA導入を決定し、業務プロセスの自動化に取り組んでいます。

 

【課題】DXのツールの一つとしてRPA導入による業務改革を検討

渋谷区役所は、2019年1月に新庁舎へ移転しました。渋谷区 デジタルサービス部長 ICTセンター長(統括課長)事務取扱の伊橋雄大 氏は、「新庁舎への建て替えに伴い、ハードウェア基盤、ネットワーク、職員が使うデバイスといったオフィス環境のインフラを刷新した」と説明します。

渋谷区 デジタルサービス部 部長 伊橋雄大氏

そして、職員の働き方を変え、従来の紙中心の業務プロセスから、デジタルを活用したさらなる業務効率化を実現し、区民への行政サービスの質を向上させるデジタルトランスフォーメーション(DX)に本格的に着手しました。

渋谷区 デジタルサービス部 ICTセンター ICT第二係 係長の宇都篤司氏によると「たとえば、AI-OCRを活用した各種帳票のペーパーレス化やBI(Business Intelligence)ツールの活用によるデータ分析・活用の促進」などのテーマがありました。そして、DXのテーマの一つがRPAの導入でした。

渋谷区 デジタルサービス部 ICTセンター ICT第二係 係長 宇都篤司氏

伊橋氏は「これまで手作業で行ってきた業務を自動化することで、ミスや業務の無駄をなくし職員の業務時間をより創造的な業務に再配分していくことがRPA導入の目的だ」と話します。

また、外部の事業者や団体などと連携した業務の課題もありました。渋谷区 デジタルサービス部 ICTセンター ICT第一係の後藤友彰氏によると、データの照会や入力といった業務を行う際に、「異なるシステム間でデータ形式が異なったり、データを一括で移行するような機能がないため、手作業でデータのエラーチェックや移行を行わなければならない」課題があったのです。

しかし、「CSV形式によるデータの一括インポートやエラーチェックといった機能を一から開発するとなると、既存の基幹業務システムなどに大規模な改修が伴うため、費用も時間も相当にかかってしまう」ことが懸念されました。

そこで期待されたのが、異なるシステム間のデータ連携をRPAが担い、手作業で行っていた業務の自動化を「大規模なシステム改修を行わずに、スピーディに実現すること」でした。

 

【ソリューション】セキュリティ性や安定稼働性、内製化へのサポートが決め手に

RPA製品の選定について、後藤氏は、RPA導入に求めた要件として、セキュリティ面の要件を挙げます。「自治体のネットワーク環境は、セキュリティの観点から情報系と業務系でネットワーク分離をしているため、どのネットワークセグメントでも問題なく稼働することが重要視されました」(後藤氏)。

選定にはAutomation Anywhereを含む複数社が応募、書類審査、デモを含むプレゼンテーションを経て行われました。

選定過程や選定後の使用を通じて、「Automation Anywhere」が優れているポイントとして、伊橋氏は「ブランドの信頼性」を挙げます。この点、Automation Anywhereは世界的に広く利用されている信頼性が高く評価されました。

また、Bot開発や実行の権限やライセンスが詳細に設定可能な点も挙げられます。自治体特有のネットワークルールの中でも、問題なく稼働できる点が評価されました。

そして、画面キャプチャの精度の高さなど、使い勝手の良さもAutomation Anywhereに優位性がありました。さらに、「Automation Anywhereの提案を行ったソフトバンクのサポート体制はマンツーマンに近い形で、職員がBotを作れるようになるまで伴走してくれる内容だった」と後藤氏は説明します。

これらが評価され、2020年10月より「Automation Anywhere」を導入することが決定しました。

メリット
ロボットが稼働する業務数:60業務
稼働中のロボット数:200超
削減効果:年間3900時間

 

【詳細】内製開発をスムーズに進めるため、最初のヒアリングを対面で、時間をかけて実施

2020年度(2021年3月末)中の本稼働をめざし開発プロジェクトがスタートしました。まずは、ICTセンターが中心となり庁内で130名〜140名の職員を対象に説明会を実施し、各課から現状、非効率だと考える業務を出してほしいとリクエストしました。

その結果、「70件くらいの申請があった」(後藤氏)ため、内容を精査すべくICTセンターで各課へのヒアリングを実施しました。そして、ヒアリングの結果、「業務プロセスにイレギュラーな要素が少なく、ツールの問題などで手作業に頼らざるを得ないため時間がかかっている」5業務が、最初にRPA化すべき業務として絞り込まれました。

たとえば、国民健康保険に関する業務では、医療機関などから医療費給付の書類が紙で送られてくるものを、OCRで読み取り、業務システムに登録します。その際、書式に含まれる個人情報を手作業でマスキングする作業をRPAで自動化することや、そのほかにもインターネットなどの公開情報から特定のデータを抽出し、日次で集計する業務など「一つ一つの作業は小さいものの、人手を介してかつ日次で発生する定型業務」がRPAの対象となりました。

ロボット開発が本格的に開始したのは2021年1月から。当初より各課での内製開発を前提に、「各課の担当に事前にソフトバンクが実施する研修を受けてもらい」サポートを受けながら開発が進みました。一方、ICTセンターは、課を横断して利用できる共通の機能の開発を担当しました。後藤氏によれば、ロボット作成にかかった時間は、「自分で試行錯誤しながら、4、5時間程度で作成が完了した」そうで、各課における内製開発も、「ロボット作成にかかった時間は最大でも50時間以内だった」と、スピーディに進みました。

このようなスムーズな導入を可能にした要因について、伊橋氏は、「トップダウンで新しいことへのチャレンジを後押しする土壌があった」ことに加え、展開の工夫として「最初のヒアリングを、時間をかけて対面で行った」点を挙げます。

その理由について後藤氏は、「各課から申請される業務の“本音”の部分を丁寧に聞きたいと思ったからだ」と話します。いくつかの課とのやり取りを通じて、「本当に自動化したい業務が他にもある」ケースに直面したため、「RPAがどう動くか、イメージを齟齬なく共有するのはリモートでは難しく、最初のヒアリングを対面で行うことで、申請内容だけでなく、その組織の抱える業務プロセスの課題や実際の紙での業務等を短時間でも網羅的に確認することが重要だ」との考えに至りました。

こうして現場部門と信頼関係を構築したあとは、ICTセンターと各課が「Microsoft Teams」などのコミュニケーションツールを駆使し、各課のメンバーとの間で、開発のスケジュール調整や、次の改善のテーマはこうしたらいいのではないかといった提言などが活発に交わされるようになったのです。

 

【結果】60業務、年間3900時間の削減効果を実現

現在、稼働中のBot数は200を超え、RPAが適用された業務は60にのぼります。渋谷区 デジタルサービス部 ICTセンター ICT第二係の新屋和彦氏は「RPAの利用実績がある部門は、課レベルで3割、部局では50%に達する」と説明します。そして、その削減効果は「年間で3900時間」が見込まれます。

特に効果が大きかった業務としては、たとえば税務業務があります。住民税は毎年1月1日時点での居住地で課税されますが、それが徴収時の住所と異なる場合、当該自治体に住民税に関するデータを送付しなければなりません。「そのため、業務システムから手作業でデータをアップロードする作業が、多い月で月間700件ほど発生します。これをRPAで自動化することで、担当者は他の業務に集中できるようになり、年間約125時間の削減効果があった」と新屋氏は話します。

渋谷区 デジタルサービス部 ICTセンター ICT第二係 新屋和彦氏

また、契約した案件における支出命令処理の起案業務も、毎年2、3月の繁忙期には全庁単位で膨大な処理件数が発生しますが、これを文書管理システムとの連携、保管作業をRPAで自動化することで年間165時間の業務時間が削減される見込みです。

そして、RPA導入によって、今までやむを得ず手作業で行っていた業務が自動化された例もあります。各課の毎月の会計収支を集計、報告する業務は、財務会計システムがあるにも関わらず、業務フローが複雑になることから、手作業で集計作業を行っていました。これがRPAにより、財務会計システムを含む複数のシステム連携が自動化され大幅な省力化を実現することができたということです。

一方、定性面での効果については、区民対応などの本来の専門的な業務へのシフトといったポイントに加え、「職員のモチベーションアップ」が挙げられます。これまでITには無縁の部署にいた職員が、RPAによる業務の自動化に成功し、その実績が評価されてICTセンターに異動してきたケースがあるほか、別の職員はロボット作成を内製化で行った経験から、「自発的に、業務改善提案を行ってくれるようになった」ケースもあります。

このように、成功体験によって、職員の意識も変わってきました。伊橋氏は「内製化の体制を進めたからこそ、職員が改革を自分ごととして考える風土が醸成できたのではないか」と話します。

 

【今後】業務改革はトップダウンボトムアップとの両輪が重要

今後はRPA未適用の課や業務への拡大を進めていくそうです。また、中長期的な展望としては、「内製開発を行うにも、付与するライセンスを無限に増やすことはできないため、ある程度、全庁横断的な業務に関してはICTセンターに開発を集約していく」とのこと。これにより、いよいよ組織横断的な業務改革へのフェーズへと移行していく考えです。

「たとえば保育園の審査、入園決定通知に至る一連の行政手続きも、区民の方はスマホから必要な書類をダウンロードして、画面を操作して申請作業を行いますが、意外と役所内はアナログな業務フローで動いているケースというのがあります。これらの業務で異なるシステム間の連携にRPAをフル活用し、真のデジタル区役所を実現していきたいです」(伊橋氏)。

また、対話型の「デジタルアシスタント」としてAutomation Anywhereの自動化ソリューションの一環として提供される「Automation Anywhere Robotic Interface」(AARI)についても、「RPAの核になる機能を共通的に開発し、各課の業務ニーズに応じて微調整やアレンジが必要な場合などに、AARIを活用していくことを検討していきたい」と後藤氏は話しました。

最後に、DXを推進したいと考える他の自治体へのアドバイスについて、新屋氏は「現場の部門が自らロボットを内製開発する体制を構築することが、広く浸透していくポイントだと考える」と述べました。システム担当部署で一括開発した場合、ノウハウが局所的に蓄積され、組織全体に浸透されにくいというのがその理由で、業務に精通した現場部門主導で進めていくのが成功要因の一つであるということです。

伊橋氏はトップのリーダーシップをポイントに挙げます。「RPAや業務改革のためのツールの一つ。導入そのものは目的ではないため、改革のゴールに関する共通意識を持つことが大事。そのためにはトップのコミットが欠かせないと考える」と話しました。

そして、後藤氏は「トップダウンとボトムアップの両輪でDXを推進していくことが大事だ」と述べ、業務改革をサポートするツールとして今後もAutomation Anywhereをフル活用してきたいと抱負を述べました。

渋谷区 デジタルサービス部 ICTセンター ICT第一係 後藤友彰氏

 

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