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RPAの導入・展開に成功している企業がやっている共通項(前編)

2020/05/27 インタビュー, スライダー



RPAの導入・展開に際して、内製、つまりロボットの開発や運用を外部に委託せず、社内のリソースでRPAを導入、展開する企業が増えている。そして、内製化に成功した企業にいくつかの共通点があることも見えてきた。米系RPA企業であるオートメーション・エニウェアでカスタマーマーケティングを担当する長橋明子氏に話を聞いた。

RPA導入・展開の課題はフェーズによって違う

 企業がRPAを導入し、社内に定着させることを考えてプロジェクトを開始しようとすると、一般的に以下のようなフェーズを経ることが多い。

1.検討・PoC 2.初期導入 3.全社展開 4.スケール

1. 検討・PoC
2. 初期導入
3. 全社展開
4. スケール

 ひとくちにRPA導入と言っても、実はこれらのフェーズで推進チームが直面する課題は実は全く違う。そのため、別フェーズにいる企業の成功例を聞いても、ピンとこないのが正直なところのようだ。

 「例えば、これからプロジェクトを開始するため、ツールが選びに苦労しているような企業が、『全社に定着させるためにこんな取り組みをしました』という企業の話を聞いても、自分がその課題に直面していないため実感が沸きません。“いま”の自社の課題解決をイメージできないのです。フェーズと課題を分けて考えることが特に重要です」(長橋氏)

 フェーズごとに課題やベストプラクティスがあるため、今自社はどのフェーズにいるのか、そのフェーズで参考になる事例は何かを意識することで、推進プロジェクトのリーダーの情報収集はより楽になる。長橋氏が運営に関わっているユーザーコミュニティのイベントでも、「どのフェーズなのか」というのは参加者、登壇者に必ず明示してもらうようにしているそうだ。そうしないと、話がかみ合わないからだ。

現場に当事者意識を持たせ「自分ごと」にさせるには?

 RPAを全社・社長直轄のプロジェクトとして肝いりで開始する企業は多い。だが、スタートのフェーズでうまく行っている企業は、最初からトップダウンで号令をかけるよりも、現場にRPA導入のメリットを理解してもらい、うまく「自分ごと」として感じてもらう工夫をしている企業が多いと長橋氏は言う。例えば、次のようなことだ。

 

自動化業務棚卸しは、具体的なデモでユースケースを想像させる

 「自動化できる業務をリストアップせよ」と言われても、RPAがどんなものか、何をどう自動化できるのかピンと来ない状態では、「自動化できるルーティン業務なんて、ありません」と言われてしまう。逆にRPAが「魔法のツール」だと思われて、どんなことでも自動でやってくれると誤解されているケースもある。人工知能 (AI)とRPAを混同しているケースもよくある話だという。

 スタートがうまくいった企業がよく指摘するのは「いきなり業務の棚卸をせよとは言わない」「ツールの説明から入らない」ということだ。

 

  • 最初の説明会では、具体的な業務の自動化をデモで見せるなどの工夫をして「自分の仕事だったら、どうか」を想像してもらうためにリソースを割く
  • 勉強会ではRPAのツールの機能説明の前に、「RPAとは何か」「RPAでできること、できないこと」を丁寧に説明し、同時に「業務プロセス改善の考え方」をレクチャーする

 

 「『BPRなくしてRPAなし』と言われるほどなので、業務プロセスをどう改善するか、つまり現在の業務を棚卸し、分解し、要不要を仕分ける作業には、どの企業も力を注いでいます。実際に、RPA導入のメリットとして、削減時間など目に見える効果のほかに『業務の見える化ができた』『BPRまではいかなくても、業務改善ができた』という声を事例の取材でよく聞いてきました。これこそがまさに、RPAの目的を示しています」(長橋氏)

 

手を挙げた部署のみ、徹底サポートする

 RPAを社内で展開する際に、教育をきちんと実施するべきという話が必ず上がる。しかし、いきなり特定の部署や社員を指名して呼んで教育をしても、その部署や当人にやる気がないと、当たり前ながら教育の効果は上がらない。

 「『RPAを導入したい』と自ら手を挙げた部署を優先的にサポートすることで、パイロットのプロジェクトが成功した、という話があります。そういう部署こそ困っている度合いが高く、モチベーションが高いため、成果につながりやすいようです」(長橋氏)

 ただし、サポートすると言っても、「ロボットを推進側が作ってあげる」だとなかなか現場で自走しない。そのため、自分にもできる体験をうまく最初に設定したり、ハードルを下げて簡単なところから始めたり、部品化して共有したりといった工夫をしているところも多いという。

 

上からの押し付けはしない

 導入を急ぐあまり最初からたくさんの部署を対象にまんべんなくスタートさせるよりも、「導入したい」という強い希望のある部署を優先してサポートする方が、成功する確率は高まる。効果が出てくると、それを見た他の部署から「うちでもやりたい」という声が上がってくる。

 マーケティングで有名なジェフリー・ムーア氏が提案した「イノベーター理論」も、この理論で考えるとわかりやすい。アーリーアダプター、つまり「新しいもの好き」な人たちと、マジョリティとの間には深い溝(キャズム)があり、マジョリティ層は自分から新しいものを取り入れることに慎重であるため、アーリーアダプターが取り入れて成功したのを見てから手をつけると言われている。マジョリティ以降の人たちに浸透するには時間がかかることもある。

イノベーター理論

 「マジョリティ層、つまり自分から手を挙げない部署に対して、上から『やれ』と言っても理解は得られません。手を挙げたアーリーアダプターである部署のパイロットプロジェクトがうまくいってから、それを事例として横展開するのが、うまく浸透を進めるポイントです」(長橋氏)