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【10社超の事例からわかった!】成果の出るRPA導入の秘訣

2020/10/23 コラム, スライダー, 導入事例



 2017年初頭から日本でも流行り始めたRPA (Robotic Process Automation:ロボティック・プロセス・オートメーション) は、ユーザーによる過大な期待値のピークを過ぎ、幻滅期を経て、2020年のいま本格的な普及期に入ろうとしている。

 いままで様々な企業がRPA導入にトライをして、成功した企業も失敗してしまった企業もいるだろうが、特に社内で大規模に展開を進めて効果を出している10社を超える顧客事例がオートメーション・エニウェアのオンラインイベント『IMAGINE Digital Japan 2020』で公開された。

 これらの成功企業のベストプラクティスを読み解いてみると、成功までの共通項が見えてきた。この記事では、成果が出るRPA導入の秘訣を事例から紐解いていく。

13社の状況

 今回イベント登壇をしていた13社は、RPA (Automation Anywhere Enterprise) 導入開始後1年以上から3年程度の企業で占められていた。業種は製造業が多めで運輸、サービス、医療、金融等様々である。企業規模も正社員200人程度から5万人を超える規模の大企業まで様々な規模がある。

 KPIとして一番一般的な年間業務削減時間であるが、12社について1,000時間から45万時間まで出ており、5万時間を超えていたのは全体の1/3だ。ただ、単純に時間数だけ見てしまうと企業規模や導入開始からの時間が異なるためにフェアではないので、年間削減時間を人工(にんく)換算してそれを全従業員数で割り、「効率化割合の1年あたりの伸び」に換算した。

 

(年間削減時間 (時間/年) ÷ 1,700 (時間/人) ÷ 従業員数 (人) ÷ 開始からの月数 x 12)

 

 すると、多くの企業は0.05%~0.15%の間に収まった。この数字は、毎年削減時間の伸び率が同じだと仮定したときに、1年あたり全従業員数 (正社員) のどれくらいの割合分の業務が効率化されているかを示す数字だ。企業規模が小さくなったり、派遣社員が極端に多い業種の企業はこの数字が大きめに出るようだ。

 貴方の会社でも既にRPAの導入を進めている場合、この数字を参考にしてみてほしい。

 

適用業務の内容

 適用されている業務は大きく分けると3種類あるようだ。

  • Excel業務
  • 業務システムとの画面を介した入出力
  • チャットボットを介した人との連携

 具体的な業務は会社や業種業態により異なるが、機器状況管理システム、保険管理システムや治験管理システムなどの基幹業務システムとの入出力、紙書類の照合/照会業務、集計業務、書類の作成業務、名寄せ業務、お客様への通知業務 (敢えて禁止している企業もあった)、チャットボットと連携したヘルプデスク業務など、多岐にわたる。

 適用業務を選定するにあたっては、業務の継続性、業務プロセスの妥当性検証を入れる、枝葉ではなく幹の業務を選定すること、As-Isのままの自動化ではなくTo-Beを考える (業務プロセス見直し)べき、事前に複雑な分岐は外に出すことも必要といった意見が聞かれた。

 

成果には定性的・定量的なものがある

 RPA導入による成果であるが、削減時間という定量効果のほかに、さまざまな定性効果も見えてくる。それらは、たとえば業務スピードの向上、顧客満足度向上、ミスの削減と品質向上、業務頻度を上げられた、諦めていた業務に取り掛かれた、テレワークにスムーズに移行できた、属人化の排除ができた、作業ストレスから解放された、残業時間が減った、ワークライフバランスが向上した、突発事項に迅速に対応できた、空いた時間を別の業務に転用できた、といったことである。これらの定性効果は大抵の企業が感じていたようだ。

 

削減時間だけで比べてしまうと短期的にはうまくいかない

 定量効果だけを見ると、十分な成果が出るまでは3~4年かかるという意見があった。しかし、そこまでは経営陣も現場も待てないだろう。定性効果はもっと早く出てくるため、RPAプロジェクトリーダーは最初のうちは定性効果をしっかり把握して経営陣にも現場にもアピールしていくことが求められそうだ。

 

開発は内製化を選択した企業が多い

 RPAのロボット開発には、外注をする方法と従業員自身がやり方を覚えて内製化する方法がある。今回登壇している13社は殆どが内製化の道を選定したようだ。RPAの取り組みを持続可能な形で続けるには内製化する必要がある、外注すると他のITプロジェクトと同じになってしまうという意見が見られた。

 

RPAツール選定基準

 RPAツールの選定基準も、この内製化を行えるかどうかで選定している企業が多かった。現場ユーザーが開発できるレベルの難易度、部品化ができるなど開発生産性が高い、ということを選定基準に入れている企業が多くみられた。

 その他には集中管理ができる、リスク管理が可能、スケジュール機能がある、といった管理性を重視する意見や、対象業務システムのUI要素の捕捉がきちんとできるツールである、ということを挙げている企業もあった。企業として効果を出すならサーバ型RPA一択であるという意見も見られた。

 

内製化は簡単ではなく努力が必要だがメリットも大きい

 内製化のメリットとして、外注する場合に比べてコストは1/3~1/5に抑えられる、ナレッジが社内に蓄積される、従業員がなぜ自動化するのかを考えるようになる (外注だと頼まれたタスクはすべてこなす方向に動くが、内製だと意味のないものはそぎ落とし本当に必要なものに絞ろうとするようになる)、社内人材の転用機会ができる、などが挙げられていた。

 一方、内製化までの道のりはかなり厳しいいばらの道であるという意見もあった。社内人材のスキルレベルにも大きく依存し、従業員のモチベーションを保ったままスキルを向上させて生産性を上げていくには、それ相応の大きな仕掛けが必要であり、経営陣の協力と投資が不可欠になるという意見が聞かれた。

 

COEの規模は小さめのところが多い

 RPA導入・推進プロジェクトの中心的な存在となる(仮想)組織は必須であるという意見が多くみられた。実際、登壇企業はほぼすべてが専任組織であるCOE (Center Of Excellence)組織を作って運営していた。

 COE組織の人材の内訳としてはIT部門の参画は必須であり、現場部門からも人材を登用することでさらにプロジェクトが回りやすくなるという。また、専任組織のミッションは単純なRPAツール導入ではなく、経営戦略とリンクさせることも必要になる。

 また、グローバル展開している企業も多かったが、海外展開の場合はCOEには中央集権型、完全分散型、両者の中間 (連合型)があり得る。多くの企業ではCOEと現場がハイブリッドでRPA導入を推進する連合型を取っているようだ。

 COEの人数については5~6人までで運用しているところが多いようだ。特に中小規模の企業では人材が割けずに2名程度で運用しているケースも見られた。現場部門のコアメンバーをうまく巻き込むなどして全体では数十人単位で運営しているところもあった。

 

現場の教育やモチベーション向上施策がカギ

 内製化をする場合は、現場部門のメンバーがロボット開発を手掛けるケースが多い (場合によっては業務の洗い出しだけでロボット作成はCOEやオフショアで行うケースもある)が、その場合現場部門の教育やモチベーション維持の施策が欠かせないと話す企業が多かった。

 具体的な施策としては、他部署の導入事例と効果を紹介して競争心をあおる、他部門との交流をする機会を設ける、早期にRPA化して効果を実感してもらう、業務のキーマンに中心となって主体的に動いてもらいRPA推進メンバーが積極的にサポートする、定量/定性効果をアピールする、RPA導入を事業部の大きなテーマとして具体的に位置づける、ロボットの正常終了率を高める、問い合わせ窓口を作る、認定・表彰制度を導入、開発に集中できる別室の空間を用意、ロボット開発を楽しんでもらう、社内イベントやコンテストなど都度形式を変えて報告会を行い工夫する (Slack & Zoomの活用、双方向型配信、学習コンテンツとして公開) 等が紹介されていた。

 また、現場メンバーを3カ月 (1クール)で育てて入れ替えるという工夫をしている企業もあった。

 

現場主導とトップ主導は両方必要

 RPAの導入で必ず議論になるのが、導入形態はトップダウンがいいのかボトムアップがいいのか、ということだ。結論から言うと、どちらか一方の方法だけ取っているというよりは両方のアプローチで進めている企業が多かった。RPA導入が中期経営計画にも入っているとトップダウンは進めやすいだろう。ただし、現場でも進める機運がないとRPA導入はうまくいかない。また、現場主導だけでもダメで、かならず組織や投資の話が出てくるため経営陣のトップダウンの指示も必要になってくる。

 RPA導入と同時に業務を徹底的に見直すBPR (Business Process Re-Engineering: 業務改革) をやるか、現場の改善から進めるかは意見が分かれていた。BPRをやってからの方が効率的であり必須であるとする企業もある一方、BPRをやらずに現場の仕事のやり方を尊重しながら進めるべきとする企業もあった、どちらのアプローチが適しているかは、企業文化によるところが大きいのかもしれない。

 

AI-OCRやプロセスマイニングにチャレンジしている企業も

 RPAと組み合わせて使っている技術に関しては、AI-OCRが一番多く約半数の企業で取り組んでいた。紙の伝票・帳票の取り扱いなど、実際の業務の中では紙で行っている部分が多いこともあるのだろう。また、まだ少ないがプロセスマイニングを使っている企業も2社ほどあった。プロセスマイニングは、RPA導入が進んでくると、適用業務が見つからなくなってくるため、中盤でさらなる展開を加速するのに役に立つ。

 あわせて、ロボット実行環境をクラウド上の仮想環境に作成していたり、リモートデスクトップを使っている企業も見受けられた。

 

RPA導入で苦労した点

 苦労した点としては、「RPAとは何か、どういう効果があるのか」ということを社内のステークホルダーと意識合わせをするのに苦労をしているケースが多いようだ。RPAは労働力減少時代の切り札として過剰な期待がかけられ、またロボットというイメージが「ドラえもんのように何でもやってくれる」という過剰な期待のイメージから「ターミネーター」のように人の仕事を奪い害をもたらす、というポジティブ・ネガティブの両極端なイメージがあり、実際にはRPAの中身が何かを本当に理解している人が少ないために、いちいち説明をして認識合わせをして回る必要があるようだ。

 あわせて部門間の調整や内製化のための教育に時間がかかっているケースや、社内セキュリティポリシーとの整合性をあわせるのに苦労したというケースもあった。画面が表示されたままRPAが動作していると他の人が操作できてしまう可能性があり、画面を表示しないようにするとRPAが動作しなくなるため、いろいろと手を考えた挙句、USBポートを無効化することでマウスとキーボードが動かないようにすることで解決したという例もあった。

 RPAの導入プロジェクトは一説によるとかける労力の8割はRPAツール選定・導入以外のことであるという話があり、それだけ通常のITプロジェクトよりも社内調整に時間をかける必要があることが伺える。

 

最初の3カ月の重要性

 また、RPA導入プロジェクトは最初の3カ月の活動内容によってROIが出るかどうかが決まるという意見が聞かれた。今まで出てきたような様々な仕組み、社内調整はRPA導入プロジェクトの早い時期にやっておかないと、後から取り戻すのはなかなか難しい。そういう意味では、RPA導入段階では専門家によるコンサルティングをきちんと受けて正しく始めることが、RPA導入プロジェクトが成功するかどうかの成否を握っているといえるだろう。必要なタイミングできちんと投資をしておくことも大変重要であることがわかる。

 

まとめ: RPAツールの導入を目的化しないこと

 以上、13社の成功事例を分析することによるベストプラクティスをお届けした。特に重要な3つの項目として「RPA推進組織 (COE)設置」、「ユーザー部門をメンバーに組み込む (内製化)」、「RPA技術認定制度」が挙げられる。

 また、RPAは業務改善の一手段でしかないことをきちんと意識する必要がある。RPAツールありきの改善は本末転倒となってしまう。RPAはあくまでも業務改善のきっかけであり目的ではないのである。先人たちの声があなたの組織におけるRPA導入に役立つことを願ってやまない。