2021年大胆予測!RPAの価格は今後どうなる?

2021/02/01 コラム, スライダー



 RPAは幻滅期の底を過ぎ、日本においても普及期に向けて展開が進んでいる。日本企業における普及率は201911月時点の情報で、中堅中小企業で25%、全体で38%1というデータがある。今後、RPAが中小企業も含めて広く広がっていくかどうかは、いくつかの要素がカギを握っていると考えられているが、その中でも大きなものの一つは価格であろう。2017年頃からRPAが注目され始めたころは、RPAは今よりももっと高価だった。この記事では、RPAの価格について過去、現在、将来について独自の検討を行ってみた。

登場当時は大企業のものだったRPA、年額1,000万円以上も

 日本におけるRPA事業は2010年前後から始まっている。BizRobo!2008年、RPAのコンサルティングの草分け的な存在であるアビームコンサルティングがBiRobo!RPAで定型を始めたのが2011年であるが、当時はまだRPAという言葉ではなく「ロボットBPOサービス」という言葉が主に使われていた。WinActorRPAツールとして市場に出たのは2014年、BizRobo!の提供元の社名がRPAテクノロジーズに変更になったのが2016年、日本のメディアでも「RPA」という言葉が一般的に登場し始めるのが2016年頃からである。顧客は最初は金融・保険業の大企業を中心に広がっていった。

 2017年になると外資系RPAも次々に日本市場に参入しはじめ、ツールの種類が増えていったのもこの頃である。市場も急速に拡大していった。”RPA市場として調査会社の計測が始まったのもこの頃からである※2RPA市場は2015年から2年間で、17倍、調査会社の予想をも上回る伸びで成長した。

 2017年のRPAツールの価格帯を見ると、年間20万円台から1,000万円台まで幅広い価格帯が存在する。RPAツールといっても2桁も価格が違うものが混在しているわけだが、主な理由は、単体のデスクトップ型PC上での自動化を想定する「デスクトップ型RPA」と全社展開を想定した「サーバ型RPA」の2種類のツールが混ざっているためだ。年間1,000万円以上のクラスに分類されていたツールとしては、Blue PrismAutomation AnywhereKofax等が挙げられる。これらはいずれもサーバ型RPAである。ちなみに、これらの価格はRPAツールライセンス本体の価格であり、どのツールも大抵SIerやコンサルティングファームが導入支援を行うためプラスで最低100万円程度、またはRPAツールライセンスの倍額程度のSI費用等が掛かるのが通常であった。

 

2019年はサーバ型RPAの年額1,000万円クラスが100万円台から購入可能に、2020年はデスクトップ型RPAも安価なものが登場

 2019年になると、Blue PrismAutomation Anywhereはいずれも年間120万円程度から購入できるオプションを提供し始めた。これはいずれも、それまでは10ライセンスがセットになっていたり複数年契約の縛りがあったりしたものをバラした形で購入できるようにしたことによる。WinActorUiPathなどのデスクトップ型RPAにサーバ型RPAのオプションを追加した場合、ライセンス価格の最低金額が300万円程度からになるため、他のサーバ型RPAの選択肢よりも下回ることになった。

 また、デスクトップ型RPAの価格は20~100万円くらいまでの価格のものが多いが、2020年になると、年間50万円以下のオプションも出てくることになる。特に2020年末に一般提供開始されたMicrosoft Power Automate Desktopは有人型が月額4,000円程度から、無人型が月額20,000円程度から使うことができ、有人型を少量使うのであれば一番安い選択肢のひとつとなった。

 このようにRPA登場当初から、ユーザー企業が増えるにつれてかなり買いやすい値段になってきているが、今後どのようになっていくのか気になるところである。ここからは独自の検討を加えて予測をしていくことにする。

 

過去の類例: Excelの普及と価格の推移

 パソコンによる業務自動化でRPAと似たソフトウェアで普及してきた製品というと、たとえばMicrosoft Excelが思い浮かぶだろう。Excelの過去の価格と普及率 (パソコンの世帯普及率※3で代替)との関係性をグラフにしてみた。

 Excelは1989年に日本語版のVersion 2.1が登場したときの日本市場での標準価格は98,000円だった。当時はまだWindowsやインターネットが普及する前の段階であり、パソコンもNEC製のPC-9801シリーズが主流であった。その後、1990年代前半にかけて、パソコン普及率が15%に近づく段階で価格が大きく下がり、5万円弱の価格となり、Windowsとインターネットが普及してくる2000年前後になり、普及率が50%に一気に増えると、2万円を切る価格で提供されるようになる。しかし、その後は今日に至るまで15,000円前後の価格が維持されている。このように、製品の普及率が本格的に上がる前に製品価格が大きく下がり、普及率が大きく上がってくるにつれて製品価格も段階的に下がってくるという関係が成り立つ。

 また、付け加えておくと、Excelの場合は実際にこの価格で買っているユーザーは実は少数派で、1990年代前半から登場しているオフィススイートによるセット販売、1990年代後半から始まっているパソコンへのプレインストール販売、さらにはアップグレード版、乗り換え版などの優待販売により標準価格よりも安い値段でExcelを購入しているユーザーが多いだろう。

 それでは、このモデルをRPAに当てはめたときにどのようになるかを考えてみよう。

 

パソコン普及率にRPA普及率をなぞらえてみたときの経過

 Excel (パソコン)でいう普及率に相当する数字は、調査会社が企業へのアンケート調査で出しているRPAの普及率に相当する。ただし、ここで気を付けなければならないのは、RPAの調査対象の母集団は大企業の含有率が高く、大企業/中小企業比率は日本企業全体の比率を反映していないことである。ほとんどが中小企業を占めることを考えると、RPAの企業全体での普及率は中小企業の比率を採用しておくのが無難なので、2018年に17%2019年に25%1という値を採用する。すると、RPA2018年の普及率はExcelだと1996年前後、2019年は1998年前後ということになる。また、2020年以降の普及率もパソコンと同様のカーブを描くと仮定したときに点線でプロットしてみる。

 また、サーバ型RPAとデスクトップ型RPAでそれぞれ先ほどの大まかな価格帯をプロットしてみる。両者は、同じRPAという名前になっているが、価格帯や導入方法が異なるため2つの異なる製品群に分けて推移を見ることにする。また、ここで、”RPA” は単一の製品ではないため、ある程度幅を持った線で描く。中央の線の値自体に特別な意味があるわけではなく、色がついた周辺が価格帯であるというように見ていただきたい。そうすると、普及率が上がってきたときの標準価格の推移がExcelと同じような値動きをするのであれば、2021~2022年あたりに価格が下がりそうなポイントが見える。つまり、RPAがこのまま普及の速度を速めて順調に普及していくのであれば、ここ1~2年でもう一度価格に変化が訪れるようなポイントが訪れる可能性がある。

提供者側の理屈から見た価格下落の余地

 次に関心があるのは、価格が下がる余地があるとすると、どれくらい下がるのだろうかということである。価格は需給両者の都合がバランスされるが、供給者側の論理から下げられる余地を考えてみる。その際、以下のような要素の検討が必要となる。

  • セルフサービスで導入するか、SIerが導入するか
  • RPAが単体で導入されるか、周辺製品と一緒に導入されるか (たとえばグループウェアの付属品として)
  • 提供形態 (クラウド化)

 

SIerが導入する際の価格の制約

 まず、デスクトップ型RPA、サーバ型RPAはそれぞれどのような導入方法を目指すのか、である。いまはいずれも導入にSIerが関わるケースが多い。しかし、製品が改良されるにつれて、デスクトップ型RPAについてはユーザー企業だけで導入できる安価な製品が主流になってくると思われる。一方、全社展開を行うサーバ型RPAは、ツールの使い方以外のところでRPA組織運営方法なども含め、最初はコンサルを受ける必要があるため、SIerによる導入が引き続き行われると思われる。

 そして、SIerが導入する製品の場合は、ソフトウェア価格とサービス価格のバランスが価格設定に影響してくる。どういうことかというと、たいてい導入サービスの価格設定はソフトウェア本体の価格と同等、とか0.5~2倍程度、など、比率が決まっている。そして、中堅SIerのシステムエンジニアの人月価格は80~150万円くらいだ。RPAライセンス価格が年額100万円台だとすると、SIer1人月分くらいの導入サービスを付けて販売するのが通常である。RPAライセンスの価格がたとえは半額、1/4とかに下がってしまうと、価格のバランス上導入サービス費用も下げざるを得なくなるが、そうするとSIer1人月の費用を取れなくなってしまい収支があわなくなるため、サーバ型RPAについては年額100万円程度から半額以下のように大きくは下がらないだろう。一方、デスクトップ型RPAの場合はその制約はないので、セルフサービス型であれば価格がまだ下がる余地はあり得る。

 

RPAが単体で導入されるか他のサービスの付属物として導入されるか

 また、別の要素として、RPAの導入がそれ単体で行われるのか親プロジェクトがありそのサブプロジェクトとして導入されるのかによっても価格は左右される。たとえばSAPまわりのシステム自動化/移行プロジェクト関連であれば、SAP本体のプロジェクトが億単位になることが多いため、RPAプロジェクトも金額が大きくなりがちである。逆に、Office 365のようなグループウェアのサブプロジェクトとして導入する余地があるなら、RPA部分の金額は安くてもプロジェクト全体として成り立つ可能性がある。さきほどのExcelで言えばオフィススイートの一部としてExcelが導入されることで、Excelに相当する部分の金額はExcel単体の金額に対して値引きされるというのと同じである。Microsoft Power Automate Desktopはこの形態がとれるため、他のデスクトップ型RPAに対して価格が安くできる。一方、外資系の御三家ベンダー (UiPathAutomation AnywhereBlue Prism)はいずれもRPA専業ベンダーであり、すでに株式上場していたり、上場を目指しているとも言われているため、RPA単体で採算を取る必要がある。そのため、今の価格から大幅に下げることは難しい可能性がある。

 

クラウド化は価格下落のカギ

 もうひとつの要素はクラウド化である。これは特にサーバ型RPAに当てはまるが、サーバの準備はハードウェア費用、ソフトウェア費用、維持管理費用などがかさみ高価になる傾向があったが、サーバ部分がクラウドになることにより、ユーザー企業はサーバ部分の構築、維持運用が不要になり、サーバ機能をすぐにクラウドで利用できるようになる。クラウド化はほぼすべての主要RPAベンダーが取り組んでおり、クラウドのほうがオンプレミスよりも価格が安く設定されていることも多い。

 

まとめ: 今後2~3年の経過

 以上の要因を考慮すると、今後2~3年のうちにサーバ型RPAは価格が下がる余地は若干残っており、デスクトップ型RPAはベンダーにもよるがまだ下がる余地があることがお判りいただけただろうか。ただし、この記事の内容はあくまでもいくつかの仮定に基づいた一考察であるので、ご了承いただきたい。

 ちなみに、調査会社のガートナー※4は、2020年末まで、RPAの平均価格は1015%下落し、2021年および2022年には年平均510%下落すると予測している。

 実際に今後、どうなるか、皆様の目で確かめていただきたい。

 

1 MM総研、RPA国内利用動向調査2020
2 ITR Market ViewAIRPA市場2017ITR Market ViewRPAOCRBPM市場2018
3 内閣府 内閣府消費動向調査
4 ガートナー、世界におけるRPAソフトウェアの売上高が2021年には20億ドル近くに達する見通しを発表