情報技術インフラを導入する際に、クラウドで導入するケースがかなり一般的になってきている。ロボティック・プロセス・オートメーション (Robotic Process Automation : RPA)の導入についても、クラウドで導入することが増えてきており、RPAツールベンダー各社はどこも「クラウド型RPA」の製品開発を強化している。しかし、ひとことでクラウド型RPAといっても実は各社ごとに実装の仕方や内容に違いがあることはあまり知られていない。この記事ではクラウド型RPAとは何かと、その種類について解説する。
RPAが持っている3つの機能群とは?
RPAはパソコン上で人間が行う画面操作を模倣して、パソコン上で動くさまざまなソフトウェアを人間の替わりに操作してくれる、というのが基本的な動作であるが、最近ではクラウド上のAPIを直接コール出来たり、AIを使って画像上の情報を認識したりと、ツールによってはかなり高機能で様々なことができるようになってきている。日本市場には何十種類ものRPAツールが存在しているが、これらのRPAツールが持っている機能は、大きく3つの機能群に大別できる。3つというのは以下の通りである。
- 開発者機能群: RPAツールが持つ最も基本的な機能群。ロボットの動作 (シナリオ)を作成する機能。その場での実行機能も含まれる。
- 実行者機能群: 作成したシナリオを実行する機能。有人型の実行と無人型の実行方式がある場合がある。無人型での実行には後述の「管理者・共同作業機能群」が必要となる。
- 管理者・共同作業機能群: 1ユーザーによる1PCでの実行だけでなく、複数ユーザー、複数PCでの組織的なRPA活用に必要な機能。
一番単純な機能のみ持っているRPAツールは、①開発者機能群、と②実行者機能群、を持っており、デスクトップ型RPAツールといわれる。①②③のすべての機能を持っている場合は、一般的に「サーバ型RPAツール」と呼ばれる。
クラウド型RPAの分類と具体例
クラウド型RPAとは、RPAの機能の一部または全部をクラウドで提供する形態のRPAツールである。クラウド化している、ということは一般的に、その機能はクラウド上のサーバから提供され、ローカルPC側では何もインストールしなくても機能を使うことが可能であることを意味する。
しかし、一言にクラウド型RPAと言っても、RPAツールによってどの部分をクラウド化しているかが結構異なっている。具体的には、先ほどの大分類である①開発者機能群/環境、②実行者機能群/環境、③管理者・共同作業機能群/環境、のどの部分をクラウド化しているのかが異なる。そして、どの部分がクラウド化されているのかにより、使い勝手もだいぶ変わってくるのだ。それぞれの部分がクラウド化されたときの形態とメリット・デメリットは以下の通りである。
- 開発者機能群のクラウド化: ロボットの動作を定義するシナリオの構築ツールがクラウド化されている。つまり、ローカルPCに何もインストールしなくても、ブラウザーベースの開発ツールでシナリオの編集が可能。UIはWebベースの場合もあれば、クラウド上の仮想マシンにアクセスする場合もある。
- 実行者機能群のクラウド化: ロボットの実行環境にあたるPCがクラウド上にあることを意味する。ローカルPCに何も入れなくてもロボットを実行できる手軽さがあるが、反面、組織内のオンプレミス環境のシステムとの連携はやりにくく、主にクラウド上だけで完結し、オンプレミスのシステム連携を必要としない簡単な作業を実行する環境として活用することになる。
- 管理者・共同作業機能群のクラウド化: いわゆる「サーバ型RPA」特有の機能をクラウド上に持つことを意味する。通常、この部分はオンプレミスでサーバを立てて実行するため、導入に際しての大きなハードルとなっていた。この部分がクラウド化されることで導入の障壁が一気に下がるというメリットがある。
尚、②の実行者機能群については、RPAツールとして標準でクラウド化されていなくても、AWS、Azure、Google Cloud Platformなどのクラウド上に仮想マシンを構築することで、比較的簡単に独自でクラウド化することが可能である。
以下に、代表的なクラウド型RPAツールにおいて、どの部分がクラウド化されて提供されているかを一覧にしてみた。
RPAツール | ①開発者機能群/環境 | ②実行者機能群/環境 | ③管理者・共同作業機能群/環境 |
WinActor Manager on Cloud | ローカルPC | ローカルPC | クラウドで提供 |
WinActor Cast On Call | (機能なし) | ローカルPC | クラウドで提供 |
UiPath Automation Cloud | ローカルPC | ローカルPC | クラウドで提供 |
BizRobo! as a Service | クラウドで提供 | クラウドで提供 | クラウドで提供 |
Automation Anywhere A2019 | クラウドで提供 | ローカルPC | クラウドで提供 |
Blue Prism Cloud | ローカルPC | ローカルPC | クラウドで提供 |
Power Automate Desktop |
iPaaS機能はクラウド RPA機能はローカルPC |
iPaaS機能はクラウド RPA機能はローカルPC |
クラウドで提供 |
BizteX cobit | クラウドで提供 | クラウドで提供 | クラウドで提供 |
実はサーバ型RPAにもある “変種”
さて、クラウド型RPAといってもさまざまな変種があることを説明したが、実は「サーバ型RPA」も若干の変種が存在することはご存じだろうか。サーバ型RPAも、クラウド型RPAと同様に、①②③のどの機能がサーバ上で動くかということで変種がある。以下に、代表的なサーバ型RPAツールにおいて、どの部分がサーバ上で実行されるかを一覧にしてみた。
RPAツール | ①開発者機能群/環境 | ②実行者機能群/環境 | ③管理者・共同作業機能群/環境 |
WinActor + WinDirector | クライアントPC | クライアントPC | サーバPC |
UiPath Studio + Orchestrator | クライアントPC | クライアントPC | サーバPC |
BizRobo! basic | クライアントPC | サーバPC | サーバPC |
Automation Anywhere | クライアントPC | クライアントPC | サーバPC |
Blue Prism | クライアントPC | クライアントPC | サーバPC |
BizRobo!だけが実行者環境がサーバ上にあることがわかる。その他のツールは管理者・共同作業機能群だけがサーバ上にある。
まとめ
このように、クラウド型RPA (そしてサーバ型RPAも若干)と言ってもRPAツールによってそのクラウド化の仕方とエクスペリエンスは結構異なっており、得られるメリットや用意すべき環境も異なってくることに注意されたい。自分の組織に合った形態を選択するとよいだろう。