RPA内製化は企業文化の変革

2021/02/12 コラム



 組織でRPAの導入を行う際、その手法として外部委託/外注するか、内製化するか、の選択を迫られることになる。RPAを導入する際には内製化が推奨されていることもあるが、実際に内製化を実践した企業はどれくらい苦労して導入したのだろうか。また、内製化は結果的に成功したのであろうか。この記事では、内製化を選択する際のポイントや注意点について紐解いていく。

内製化はいばらの道!?

 組織の業務改革 (Business Process Reengineering: BPR)を行う際には、初期にコンサルティング会社などの支援を得て課題の発見と優先順位付けや、課題解決方法のフレームワーク作成を行うことが多いだろう。しかし、業務改革の目標は組織の従業員自身がどう仕事を変革するかなので、最終的には内製だけですべてを行うようになっていく場合が多いだろう。もちろん、一部の業務を外注に出し続けるという選択肢もあるが。

 RPAの導入も組織の業務改革に関連付けられている場合は多いが、業務改革の要素に加えてRPAツールを使いこなす要素が入ってくるため、「RPAツールを使いこなす」という要素を組織でどう扱うかを考える必要がある。業務改革の一部としてRPAをとらえるのであれば、最終的には従業員自身がRPAも運用する内製化に持っていきたいところである。実際、RPAを内製で運用しているところも多いが、内製化に成功した企業から聞かれる意見として、「結構大変だった」「いばらの道だった」という声も聞かれる。これは何故なのだろうか。

 

日本ではITは外注が当たり前だった

 それは、日本は元々ITを内製ではなく外注で賄っている企業が多かったことに由来する。日本におけるIT技術者の所在はユーザー企業に28%で、欧米諸国の50~65%に比べて極端に少ない※1。これはこの20年くらいは傾向が変わっていない。また、日本はジョブ型の雇用ではなく、新卒採用を行ったら終身雇用を前提に組織内の様々な部門を経験するジェネラリストの集団である。そのため、専門的な知識が必要だったITの分野は、どうしても社外の専門家に頼らざるを得ない状況もあった。

 

近年は少しずつ流れが変わってきた

 しかし、2010年以降、ITインフラのクラウド化が進み、ITインフラの管理にそこまでの専門性が求められなくなり、2015年以降、ディープラーニング技術の発展によりビジネスでのAI活用が活発になってきたことなどにより、従来の外注一辺倒の傾向から、内製でのIT活用に光が当たるようになってきた。

 また、2010年代には従来の記録をするためのシステム (SoR: System Of Record)から、より新しい分野である、ユーザーとのエンゲージメントを行うためのシステム (SoE: System Of Engagement)により多く投資をすべきという考え方も広まってきており、SoEはデータを集めることでそれを実現するため、クラウドやAIの普及とも密接につながり、ユーザー企業の現業部門でのITのより一層の活用が求められるようになってきた。

 そんな中、現業部門がIT技術者でなくても業務自動化を行うことができるということで、RPAに対する期待が一気に高まり2017年頃からのRPAブームに繋がった。

 

変化の時には内製化が新たなビジネスを生み出す

 クラウド化の加速、AIの活用、データの活用によるユーザー体験の向上が合わさることで、ビジネス上競合他社との大きな差別化になったり、新しいビジネスを生み出すことができるようになってきている。しかし、それを勝ち取るには、今までのやり方の延長線上ではなかなかうまく行かないらしい。

 

新しい領域への投資とその手法の課題

 そんな企業の苦悩について、経済産業省が「DXレポート」※2という形でまとめている。このレポートは20189月に最初に報告されたものだ。DXは「デジタルトランスフォーメーション」の略であり、テクノロジーを駆使してユーザー体験を向上させることで競争上の優位を獲得することを指している。DXという言葉は2004年に生まれたとされるが、日本でも2016年頃から徐々に使われ始めており、経済産業省のDXレポートで一気に世の中に広まった。

 DXレポート/DXレポート2および関連資料の中で触れられている、デジタルトランスフォーメーション推進におけるIT投資領域以外の課題 (レポートの中でも触れられている通り、レポートを作成している研究会はベンダー目線でレポートを作成しているため、最終的にシステム導入促進が結論となっており、そこは割り引いて考える) として挙げられている主なものは以下の通りである。

  • 取締役会レベルでのデジタルに対するビジョン、戦略、理解の不足。現場の反対を押し切れる経営トップが少ない。心理的安全など関係者間の共通理解の形成、CIO/CDXO の役割・権限等の明確化。
  • スタッフの準備、教育不足。ベンダーへの要件定義も含めての丸投げの習慣の改善と内製化。ベンダー企業との責任分界点が不明確。ベンダーへの受託事業関係の変革。SoRSoE 両方のバランスと、アジャイル開発、API/Web API ベースの疎結合構造といった革新的アーキテクチャへのスキルシフト。ジョブ型人事制度の拡大。
  • IT予算の8割が既存インフラの維持に充てられている。

 

 実は、RPAを推進する際にも、ここに書かれているような事項は同様に当てはまる。RPAの組織規模での推進は、業務改革、DX推進と本質的に同じであるためだ。つまり、DX推進の一部としてRPAを使う、業務改革の一部としてRPAを使うということが通常行われる。

 

手法の本質は文化の変革

 DXレポートの中でも書かれているが、「2025年の崖」や「DXの推進」は、単純にレガシーシステムをアップデートしたり、リモートワーク対応のための新しいシステムを導入することではない。(実はDXレポートはベンダー目線で書かれているために、結論としてシステム導入を行うべきということが強調されているが、よく細部を読むとそれ以外の重要性も書かれている。) 成果として見えやすいのはシステムの導入や更新なのであるが、それはあくまでも結果の一つとして現れるものであり、目的ではない。そしてそれを行う過程そのもの、つまり企業文化の変革の方がもっと重要である。手段を目的化してはならない。また、RPAも導入自体を目的化しないことが重要である。

 先に挙がっているような課題は、単純にシステムを導入するだけでは解決しない。そもそも企業としてのビジョン、戦略、意思決定、雇用の方針などの企業文化を根底から見直さないと解決しないことが多い。欧米諸国や中国・インドなどの新興国も含め、ジョブ型雇用、アジャイル開発への適応、最新アーキテクチャの採用、内製化がどんどん進んでいる。突き詰めると日本市場の雇用の流動性を高める必要があるなど、必ずしも1企業だけで解決できない課題も出てくるのであるが、自社で率先して動けるところから動き始め、企業文化を変革することが、DXの目的である「競争上の優位を獲得する」ことにつながる。

 

新たな企業文化のインストール

 以上、見てきたように、DXRPAを推進するためには、単純にシステムやツールを導入するだけでは効果が限定的になってしまったり成果が出なかったりしてしまう。本質的な課題である企業文化を変革して、革新に必要な要素を組織に インストールする必要がある。これが、RPA導入を経験した企業が、「結構大変だった」「いばらの道だった」と述べている理由である。新しい企業文化の インストールであるから、経営陣だけ頑張っても現場だけ頑張ってもうまくいかない。組織に所属する全員が自分事としてとらえ、それぞれの役割に必要な変革を実践する必要がある。以下、具体的にどのような変革がどの役割に求められるのかを見て行く。

 

破壊と創造のリーダーシップ

 経営陣に求められるのが、組織としてのデジタル化、DXに対するビジョンの作成、既存の企業文化の破壊と創造、そしてそれに伴う人事制度 (雇用方針、採用方針、処遇、表彰など)の変革である。これには外部プロフェッショナル人材の登用も含めた終身雇用前提の雇用体系の変革、時間拘束による評価制度から成果ベース (ジョブ型) の評価精度への変革なども含まれることになる。あわせて、この20年で導入されてきたさまざまなITシステムにより、昔よりも人力による従業員管理の必要性が薄れているため、組織の風通しを良くするための組織のフラット化も推進する必要がある場合がある。

 これらの事はいずれも組織の根本にかかわることも多いため、1~2年で簡単に変われるものではないだろう。しかし、ここに手を付けないことには企業文化の変革ができないこともあるため、優先度を決めて順番に中期経営計画などに盛り込んでいく必要があるだろう。

 

マインドセットの変革―失敗から学び成長を加速

 「組織は人なり」「事業は人なり」「企業は人なり」と言うように、組織は人から出来ている。企業文化を変革するには、企業の従業員の考え方 (マインドセット)を変革する必要がある。昨今はITの発達や社会情勢の変化により事業の状況はどんどん変わっており、昔のやり方は通用しなくなっている。これに対応するためには、意思決定のスピードアップ、アジャイル開発、短期的成果の追求、そして状況の変化を察知しての自発的な計画立案などが必要になってくる場合がある。

 あわせて、長く存続している組織ではどうしても前例に照らし合わせての判断、減点主義になりがちであるが、変化が速い社会情勢では過去の成功体験は役に立たず、むしろ邪魔になってしまう。そして、正解は過去の事例にはなく、試行錯誤をアジャイルに行いながら、失敗から学んで自ら開発、成功、成長していくオペレーションを文化として根付かせる必要がある。指示待ちの状態でなく、自ら動いて変革を起こしていけるような文化の変革が必要となる。そして、この失敗から学ぶ手法は外注をしているとなかなか難しく、内製化しているからこそ実現できる

 

危機感の共有、共感のコミュニケーション

 ただし、このような企業文化の変革はボトムアップで自発的に出てくるものではない。最初は経営陣が企業文化の変革を目標に掲げ、なぜそうしなければならないかを危機感の共有、そして論理だけではなく心に訴えかける共感のコミュニケーションを行っていく必要がある。そして、コミュニケーションは最終的にトップダウン、ボトムアップの双方向で行われる必要がある。

 日本は「熱意溢れる社員」が6%しかいないという2017年の調査※3もある。米国の32%と比べて大幅に低く、調査した139カ国中132位と最下位レベルということである。当事者意識があり、やる気にあふれる社員の生産性は、単に満足している社員よりも2倍以上生産性が高いというデータもあり、また、変化に対応していくための原動力にもなる。いわゆる「グロースマインドセット」を持っている従業員を増やす必要があるということである。

 

スキルのインストール

 RPAをはじめとする新しいテクノロジーを内製化していく際に、最も障害になるのが「スキル不足」への対応といわれている。実際に、RPAを内製により組織規模で展開した企業も、この部分はかなり苦労したとコメントするところが多い。もともとジェネラリストが多かったりIT人材が少ない現場でスキルを上げていくのは容易な事ではない。そもそも対応できる人数がそろわないという場合もある。しかし、現場でスキルを持つことは、「失敗から学ぶ文化」を実現するためにも必須である。

 処方箋は組織によって異なってくるが、もし金銭的に余裕があれば最初は外部委託も使いながら、その間に外部人材の登用、社内の他部門でスキルのある従業員の登用、既存の従業員にスキルを習得させるためのトレーニングの実施などを行っていくことになる。また、これらはワンタイムで行うことではなく現場のリーダーとうまく連携しながら継続的にインストールを継続していきスキルの定着をさせる必要がある。

 

顧客目線のインストール

 最後に、経営陣、従業員とも、組織内だけでなく組織外、特に顧客の立場に立った発想、考え方をするように変革をしていく必要がある。「顧客目線」はどの組織でも当然のこととしてコミュニケーションはされているが、実際に本当にできているところは多くないものである。常に客観的な目線から顧客目線、顧客体験の向上ができていることを検証する必要がある。

 

まとめ

 以上からわかるように、RPAITの内製化を行うには、単純にツールを使えるようになるだけではなく、広範囲に及ぶ企業文化や組織のオペレーションを変えていく必要がある。これが、内製化が一筋縄ではいかない理由であろう。しかし、この変化をいち早く実践できれば、競争上の優位を獲得できる可能性がより一層高くなるため、経営計画の重要な部分に入れておく必要があるだろう。

 

情報処理推進機構「IT人材白書2017」総務省平成30年度版情報通信白書

2 経済産業省  デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~20189/ DXレポート2(中間取りまとめ)202012

3 米国ギャラップ社「熱意あふれる社員」の割合調査