今後のRPAの使われ方はどの方向に向かうのか?

2021/04/07 コラム



 2021年、この年はRPAの歴史において転機の年となるだろう。一番大きな出来事としては、3月にマイクロソフトがRPAであるPower Automate DesktopをすべてのWindows 10ユーザーが追加費用無しで利用できると発表したことである。いままで結構な値段を払わないと入手できなかったツールが、これからは事実上無料で手に入るのである。しかし、一方でRPAツールはすべて無料になっていくとも思えない。ここには明らかに無料/有料ツールの使い分け発生すると考えられる。この記事では、この使い分けについて見て行きたいと思う。

無料で使えるようになったPower Automate Desktop for Windows 10の実力

 Microsoft Power Automate Desktopは、元々マイクロソフトがクラウドベースの自動化/分析のローコードプラットフォームとして提供していたPower Platformの中のMicrosoft Flowと呼ばれていたクラウドベースの自動化サービスに、画面を介しての自動化であるRPAの機能を追加したものである。この技術は、元々イギリスの企業 Softomotive社が持っていたWinAutomationという製品を買収して名前を変えたものがベースとなっている。

 このWinAutomationと呼ばれる製品は、元々RPA市場の中でリーダーの製品ではなく、中小企業のユーザーが多いと言われていたのだが、マイクロソフトのブランド力と信用力、顧客への豊富なリーチ手段、月次で製品を更新できる資金力と開発リソース力などを備えており、買収前と比べて格段に市場での存在感が増した形である。

 そして、このRPA製品がいよいよWindows 10にも同梱される。利用にはクラウド環境への接続が必須であり、「マイクロソフトアカウント」か「職場または学校のアカウント」のいずれかで、サインインをすることが求められるため、外部のネットワークに繋がっていない環境では利用ができない。しかし、いまや大抵のパソコンはインターネットにつながっていることを考えると、多くの活躍の場があることが期待される。

 また、追加費用無しで使える範囲でも、400近いRPAのアクションと一般的なソフトウェアとの画面を介した連携機能を使うことが可能だ。

 

RPAWindows 10標準搭載で足りるのか?

 では、組織がRPAを導入する際に、Windows 10を持ってさえいれば事足りてしまうのだろうか?結論から言うと、そのようにはならない。RPAを何の使う目的で使うかによって、この範囲で済むのかどうかが決まってくる。

 

“RPA機能を使うならWindows 10標準搭載でもだいぶ使える

 RPAを特徴づけるもののひとつとして、「パソコンの画面操作をやってくれる」というものがあるが、この機能自体はWindows 10標準搭載版でも使うことができる。いままでWindowsに搭載されていた自動化ツールは、たとえばDOSコマンド、PowerShellJavaScriptVBScriptなどだった。ほぼ付属しているMicrosoft Officeまで含めれば、Excel VBAなども標準搭載といえるかもしれない。しかし、いずれのツールも、複数のソフトウェアを横断的に画面操作で自動化を行うことは簡単にはできなかった。無料で使える画面操作ソフトウェアの類もなくはなかったが、インストールや使い方が難しく、一部のパワーユーザーにしか使われなった (そもそもパワーユーザーは画面操作に頼らなくてもスクリプト言語で自動化することを選ぶことが多い)

 Microsoft Power Automate DesktopがWindows 10に標準搭載されることで、誰でもスクリプトや画面操作を組み合わせた自動化作業を作りやすくなったことは確かだろう。

 

RPAで組織として効果を得るなら有料ツールの導入が必要

 一方、前述した ”RPA機能を個人のパソコン上で使う場合は、その個人が少し便利になるくらいの効果は見えるかもしれないが、それ以上の波及効果を得るのは難しい。元々RPAがこれだけ注目された理由としては、単純な画面操作機能ではなく「先々の労働力不足が予想される中で、RPAが従業員のようにいろいろなパソコン作業をやってくれる、効率化してくれる」という文脈があったからである。また、画面操作機能で使われる技術自体は、もともと15年以上も前からWindowsに標準搭載されており、パワーユーザーが利用しようと思えば利用できる状態にあった。

 組織としてRPAを活用するにあたっては、作成したロボットを複数のパソコンで運用する機能 (物理だけでなく仮想マシンも含めて)、人がいない間にもタスクを実行できる機能、チームでロボットを共有する機能、不正が行われていないかを監査する機能、全体の進捗や成果を可視化出来るようにする機能など、チームとしてRPAを使う機能やプロジェクト管理の機能が必須となってくる。これは開発ツールとも類似しており、コードを書いてコンパイルするだけの機能であれば無料でもいくらでもツールはあるが、開発チームとしてのプロジェクト管理機能が必要になってくるのだが、この部分は有料となっている。結果として有料でソフトウェアやサービスを販売している企業は、有料の開発ツールを使う機会が多くなることになる。

 また、RPAは業務改革とも密接にかかわっており、単純にツールを使い始めるだけでは効果は薄く、「正しい順番で正しい場所に使う」ことが効率を最大化することにつながるため、導入ノウハウを持った協力会社と連携しながら導入していくことも必要になってくる場合がある。RPA導入を行って事例にもなったある企業の話では、RPAツールがRPAプロジェクト全体に占める割合は2割程度で、その他は社内の説得、プロジェクトの進め方など、組織の人や交渉に関するものが占めていたという話もある。

 

今後のRPAの使われ方として想定される二極化

 RPAツールがWindows 10標準搭載となったことで、今後はツールの使われ方が二極化してくるものと思われる。ひとつはいわゆる「デスクトップ型RPA」としての使われ方で、個人のデスクトップパソコンで、個人が自分の作業の自動化効率を上げるために使う方法である。いままではスクリプト言語など、ハードルが高い仕組みを使う必要があったが、パワーユーザーでなくても画面操作で自動化出来る範囲で作業を自動化出来るようになったことで、パソコンの使い方にもますます工夫できる余地が出てくるものと思われる。

 一方、組織として業務効率を上げる目的で導入されるRPAは「サーバ型RPA」と呼ばれる仕組みを持ったものであり、チームとしての共同作業やプロジェクト管理ができる仕組みを実装している。そして、サーバの部分はオンプレミスで組織内のサーバやクラウド上の仮想マシンに導入する形式よりも、RPAベンダーがあらかじめ準備をしておくことでデスクトップ型RPAとほぼそん色ないクイックスタートを行うことができる「SaaS型展開」(RPA-as-a-Serviceとも言う)が主流になっていくと思われる。

 

まとめ

 一時期は、デスクトップ型RPAはすべてサーバ型RPAに移行していくともいわれていたが、両者には異なるニーズがあるため、それぞれの領域で共存していくことになるだろうというのが、2021年時点でわかってきたことである。

 そして「デスクトップ型RPA」はWindows 10に標準搭載されることで、価値が無料に近づいていき、「サーバ型RPA」は組織としての効率化を達成できることに見合った価格を維持することになると思われる。