3月11日に行われたオンラインイベントリレー2021 Springウェビナーの基調講演では、Peaceful Morning株式会社の藤澤氏をモデレータとして、株式会社システムサポートの西村氏、株式会社Cogent Labsの岩瀬氏、オートメーション・エニウェア・ジャパンの佐野氏が、新型コロナで急速に進んでいるデジタルトランスフォーメーション (DX) ペーパーレス化について解説した。後編では、ペーパーレス化を進めた事例から学べるインサイトや、最近話題のMicrosoft Power Automate Desktopについても話が及んだ。
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ペーパーレス化の正しい進め方とは?
ペーパーレス化の取り組みとして事例が2つ紹介され、パネリストの間で熱い議論が交わされた。
請求業務の一部をペーパーレス化
システムサポート西村氏
最初の事例は、西村氏が在籍するシステムサポートで行われた、社内の請求書突合業務のデジタル化である。業務内容としては、約20の事業部から本社に請求書の情報がデータと紙の形で集まってくるのだが、もともと経理部門ではシステムの内容と紙の内容を目視でチェックしていた。この突合業務を自動化するというプロジェクトだ。
業務量として、毎月400社、約1000件のデータが来る。そして修正点がある場合は1営業日で完了する必要があるという、かなり短時間で終えなければならない業務であり、経理担当者にも精神的な負担がかかる。
これをIQ Botを利用した業務で置き換えたわけだが、西村氏によると、最初からやるにしては規模が大きすぎたのだという。このプロジェクトはタイムリミットがあり、データが膨大、かかわる部署もたくさんあったため、イレギュラー処理対応も含め、効果が出るのに2~3カ月の時間がかかり、途中で何度か挫折しそうになったということだ。まずはもっと小さく始めたほうが良い、というのが西村氏のお勧めである。
裏話としては、システムサポートはIQ Botが登場したてだった頃から手探りで始めたところがあったのだが、後に佐野氏などが行っているIQ Botトレーニングを受講して体系的な知識を得たり、スキャナの機能と組み合わせるワザを覚えたことで実装速度がかなり上がったという。
西村氏がAI-OCRを使って感じることは「OCRは万能ではない」ということだ。他のソリューションが使える場合は、それと組み合わせることが重要であり、たとえばスキャナの機能とも組み合わせることを考えることも重要だという。請求書だと社判が押されていて、これが読み取り時に邪魔になるが、スキャナの機能で印影を消してくれる機能もついているものがあるため、この機能と組み合わせることがとても効果的である。
このプロジェクトは経理と総務に1名ずつ出てもらい、RPAビジネスグループからエンジニアをIQ BotとRPAとで2人出して実施したという。実質4-5名の体制であった。そして、トライ&エラー、アジャイル型の開発を行い、サンプルを学習させて動かす、というのを繰り返した。
一方、佐野氏によると、ある金融の別の顧客だと、一緒にIQ Botプロフェッショナルサービスのメンバーがついて実装したところ、IQ Botの実装は2日で出来たという。実装速度も体系的なノウハウがあるかどうかでだいぶスピードが変わってくるようだ。
新型コロナのワクチン接種券の配布
Cogent Labs岩瀬氏
岩瀬氏がプロジェクトで体験したのは、政府が進めるワクチン接種記録システムである。新型コロナのワクチン接種は、元々ある予防接種の従来型のシステムではなく新しいシステムを使うことになる。接種状況の即時の把握、自治体との連携、国民への周知を行う必要があり、これは従来型のITシステムではできない。そのため、政府のIT総合戦略室がやると決めたという。
実際現場に目を落とすと、接種券はシールであり、国民がこれをもって接種会場に行く。すると予診票を書いて接種券を貼って問診を受けるのだが、ここはユニバーサルなUXである紙を使う。ただし、書かれた紙からのデータ入力処理はデジタル化で効率化出来る。どのメーカーのどのロットのものを何回摂取したかを自治体の予防接種台帳か、政府が準備した記録システムに手作業で全国民分入れることになる。この部分は何回か仕様が変わっており、最新状況としては、政府から数週間前に、タブレットを会場に配るので、タブレットで予診票をOCRして連携することが発表された。このように政府もいま試行錯誤を早くやっており、OCRの対象領域は少し減ったのだが、現場のオペレーションと効率化でどうバランスを取るかというのを見ながら政府もやっているようである。
政府がデジタル・ガバメント実行計画の中で出している「サービス設計12箇条」にはDXの推進の上でも参考になりそうなことがいろいろ書いてあると岩瀬氏は指摘する。12箇条とは以下の内容である。
第1条 利用者のニーズから出発する
第2条 事実を詳細に把握する
第3条 エンドツーエンドで考える
第4条 すべての関係者に気を配る
第5条 サービスはシンプルにする
第6条 デジタル技術を活用し、サービスの価値を高める
第7条 利用者の日常体験に溶け込む
第8条 自分で作り過ぎない
第9条 オープンにサービスを作る
第10条 何度も繰り返す
第11条 一遍にやらず、一貫してやる
第12条 システムでなくサービスを作る
最近は地方自治体におけるコロナ給付金システム立ち上げを2週間という短時間で行った事例や、システムの受注をベンチャー企業が行ったりと、政府、自治体の動きも変わってきているようである。
一方、真のデジタル立国の足かせになるのは、既存システムとの連携であり、自治体ごとにシステムが違うのでデータの移動などが大変である。マイナンバーなどをうまく使ってシステム間を連携することが求められる。既存システムは部分最適化されてしまっているので、全体最適とどう折り合いをつけるのかを考えなければならないだろう。そして、新しいクラウド型のサービスとレガシーと現場のオペレーションの3つをうまくつなぐというところは、RPAが担っていく可能性もあるという。このようなRPAの使い方にはレガシーの延命という批判もあるが、延命をやりながら時間を作っていって、真のレガシー脱却を目指すことができるというメリットもあるだろう。
本当にOCRを使うべきかどうかを見極める
オートメーション・エニウェア佐野氏
佐野氏が指摘したのは、そのユースケースでOCRを使うべきなのか、紙をなくすのが最適な手段なのかを最初に見極めることの重要性だ。見極める際の一つのヒントとしては、紙を誰が発行しているかだ。つまり、これが自社でコントロールできるのか、他社に依存しているのか、ということである。もし自社でコントロールできるなら、紙を使う代わりに最初からデジタルでデータ入力を行う他の手段を選択することもできるため、その場合はOCRを使わなくても良くなる。
また、自分たちのコントロールが及ばないユースケース (先ほどの請求書の例など) でもOCRを使うほどのものなのかどうか、どういう情報がほしいかの程度によってOCRを使うのかどうかが決まってくるので、見極める必要がある。たとえば、帳票の中のすべての文字をデータで欲しいのか、ただ判子が押されているのかを判別したいのか、による違いである。
あわせて、OCRを使うかどうかを見極める際は、情報収集以上に判断が重要となる。顧客によっては、100項目x20種類のOCRの機能比較をしている例があるが、OCRを使ってやりたいことが決まっていればそんなに多くの項目や製品の比較をしなくても、重要な2~3の項目だけ比較すればよいのである。逆に情報を集めすぎると決められない状況に陥ってしまいがちであり、あまりお勧めできない、とのことである。
Power Automate Desktopの無償化をどうとらえるか
Peaceful Morning藤澤氏
最後に、話は直近でマイクロソフトから発表があった、今後Windows 10にRPAの基本機能が標準搭載されるということに及んだ。
佐野氏は「RPAを使う行為が身近になるのは良いこと」と捉えていると答えた。RPAは定義が広く、CSVファイルを加工するなど、個人の単位のタスクの自動化をする際は、マクロよりも使いやすい。それをみんなが使えるのはいい傾向であるはずである。
では、他のRPAベンダーの脅威になるのかどうか、というとどうなのか。発表があった時、ユーザーからの声としては、うれしいという声と、IT管理者からは管理統制が効かなくなって怖いという話もある。管理をどうするのかということは、デスクトップ型RPAだと現場に任せておくと野良になるが、管理統制が強すぎると広がっていかない、というジレンマがある。サーバ型RPAはこれらが両立でき、ほっておいても管理統制が取れるのである。Power Automate Desktopも有償版であればサーバ機能もあるが、Automation Anywhereは最初から管理の部分が自然に使えて使いやすいように設計されており、管理の問題はスムーズに解決できる、と佐野氏は指摘する。
藤澤氏は、「100社のRPAユーザーにRPAを期待以上に活用できているか、と聞くと6割は活用できていないと答える」と指摘する。ツールは配って終わりではなく、全社的に大きな目標を掲げているところは、活用におけるベストプラクティスが問われてくるのである。今後は、エンタープライズRPAの製品群と個人向けRPAの製品群との併用、二極化になっていくのではないかという印象もある。また、SharePointやTeamsとの連携も必要になる場合が多く、この辺のトレーニングがより多く出てくればPower Automate Desktopもより使いやすくなっていくのではないかということだ。
西村氏も「敷居が低くなるのはいいことである」と述べた。入り口としてはPower Automate DesktopでRPAになれるのはすごく良い一方、部門間をまたぐ場合はAutomation Anywhereが使いやすいという。このような使い分けをちょうどそんな感じで社内でも話しているということだ。
最後に
各パネリストからの一言提言で、セッションは締めくくられた。
岩瀬氏: なんでもPoCという時代は終わっている。スモール本番でスタートするのが良い。
佐野氏: デジタルやRPAをこわいものと思っている経営者の人もいるかもしれないが、企業がより原点回帰する動きが進んでいく。単純作業はロボット、社員は価値を繰り返し生み出すことに集中できる。その時に自社はどういう価値を出すのかを考える、そのビジョンを持つことがDXというよりも重要なのではないか。
西村氏: 一人で悩まずに(パートナー企業も含めて)相談できる人に相談しましょう。