エンタープライズ企業のための「次世代RPA」メディア

デジタルトランスフォーメーションを進める上でのペーパーレス化の正しい進め方とは (前編)

2021/05/12 コラム, スライダー



 3月11日に行われたオンラインイベントリレー2021 Springウェビナーの基調講演では、Peaceful Morning株式会社の藤澤氏をモデレータとして、株式会社システムサポートの西村氏、株式会社Cogent Labsの岩瀬氏、オートメーション・エニウェア・ジャパンの佐野氏が、新型コロナで急速に進んでいるデジタルトランスフォーメーション (DX) ペーパーレス化について解説した。前編では、DXを進める上で日本企業が抱えている課題やペーパーレス化に成功する会社、失敗する会社の特徴について議論が行われた。

新型コロナ禍で進むペーパーレス化

Peaceful Morning藤澤氏

 セッションの冒頭では、モデレータの藤澤氏が、2020年末に経済産業省が発表した「DXレポート2中間とりまとめ」の概要の紹介を行った。本レポートでは、コロナを契機に日本の経営者が取り組んでいくべき課題が挙げられている。その中では、業務のオンライン化、従業員の安全・健康管理のデジタル化、業務プロセスのデジタル化、顧客接点のデジタル化、という4つの観点が取り上げられている。この中の「業務プロセスのデジタル化」の文脈中に、「OCR製品を用いた紙書類の電子化」「クラウドストレージを用いたペーパーレス化」に取り組む必要がある、と指摘されている。

 そして、コロナで紙を扱う部署の人だけが出社している現状が浮き彫りになった。また、ペーパーレスを進める上でどのようなツールを入れたか、ということもデータがあり、電子ワークフロー (稟議書・申請書など)、勤怠管理システム、経費精算システムの導入が上位に挙がっていると、藤澤氏は指摘する※。

※ペーパーレス化に伴う2021年度予算に関する意識調査

 

DXを進める上で日本企業が抱えている課題

部門名を変えただけのDX推進体制

 その後パネリストも交えて、まずDXを進める上で日本企業が抱えている課題について意見を出し合った。

 オートメーション・エニウェア・ジャパンのセールスエンジニア佐野氏は、元々オートメーション・エニウェアのAI-OCR製品であるIQ Botの専任エンジニアとして、昨年は年間100件くらいPoCを行っていたという。また、前職は金融業のITシステム子会社で働いていて、ITプロジェクトを実際に推進する立場でもあったそうだ。そんな佐野氏が日本企業の課題について指摘するのは「判断するのが苦手だが、実行は得意」「阿吽の呼吸は得意だが、意思決定の背後にあるロジックを言語化するのが苦手」「耐え忍ぶことを美徳とする」という3点だ。DXプロジェクト推進体制についても、もともと情報システム「管理部」だったのが「企画部」「推進部」になって名前を変えているが、実態は変わっていないといったことが多々起こっているようだ。実際に業務の仕組みを変えるという判断は苦手であり、変える判断をすると変えた責任を取らないといけないため、部門名だけ変えてお茶を濁しているパターンが結構あるという。

 

オートメーション・エニウェア佐野氏

 

リソースや相談相手が不在なまま推進を迫られている

 一方、システムサポートのRPAコンサルタント西村氏は、日本企業の課題として「経営層と現場との認識の差」「部門横断でDXを推進する体制ができていない」「伴走する企業がいないケースが多く、迷子になって挫折するパターンが多い」という3点を挙げた。たとえば、パッケージシステムを導入したら解決すると考えている経営層も多いが、実際にはそこはスタートポイントであり、そこからが改革の始まりである、というところに認識のギャップがあるという。また、デジタル、ITに強い従業員がDXを推進して、実際に業務を分かっている現場の従業員たちが実際には判断すべきなのに他人ごとになりがち、という部門横断の協力関係が築けない企業も多いという。また、社内で深く検討するだけのリソースがないままDXをやれと言われている担当者も多く、つらい立場に追いやられている。いわれた本人は何をやればいいのか分かっていない。パワーがある人でないと、他の業務と並行しながらだと推進が難しく、評価もされづらい、ということだ。あわせて、ツールのコストが高く、ツールを入れた後の人的コストも高くて投資に踏み切れない、という企業も多いという。一方、現場がRPAとか勝手に始めているものを整理する必要がある場合もある。現場で考えて始めてもらうのはいいことなのであるが、組織全体としてのガバナンスが効かなくなるのが難点であり、いい案配が難しいという。RPAについては、Microsoft Power Automate Desktopも出てきたので、今後、プロジェクト費用が下がるのかどうかを注視している、とのこと。

システムサポート西村氏

 

DXを実施する原点を忘れている場合も

 岩瀬氏が在籍しているAIスタートアップであるCogent Labsは、オートメーション・エニウェアのIQ BotAI-OCRサービス「Tegaki」のエンジンを提供している。岩瀬氏はペーパーレスには2~3年かかわっており、自治体等との取り組みも行っているという。岩瀬氏は「電子化やペーパーレスに集中するあまり、なぜDXをやらないといけないのかが置き去りになっている」ということを指摘した。DXはより競争優位になるための取り組みであり、そのためにカスタマーエクスペリエンス、UXを向上させることが重要であり、小さい範囲の電子化もいいが、顧客側の立場も考慮して必要なUXをきちんと考えるべきであるという。DXの成功には、顧客価値をどうあげるのかの検討や、現場で起こっていることがリアルタイムで経営まで届くこと、が不可欠であり、これが競争力向上につながるということだ。いままでよりも、より現場のアナログなところをいかにデジタル化して経営層まで届けるか、というところが焦点になる。

 

ペーパーレス化に成功する会社、失敗する会社の特徴

 次に、パネリストの間で、DXやペーパーレス化をうまく推進している会社と推進できていない会社の間にある違いについて議論をした。ペーパーレスはDXの中の機能の一つでしかないため、ペーパーレスを目的化しないことは重要なことになってくる。

 

現在の紙の書式をそのままデジタル化しても意味がない

 佐野氏は「紙をPDF化するだけで止まっている企業はうまく行かない」と指摘する。「会議資料を紙一枚にまとめてきて」といわれるとA3の紙に小さい文字でまとめてくる人がいる。これをPDF化してウェブ会議して字が小さいというのは本末転倒であり、本質的なことを理解せずに作業をした結果であるという。本来は、「(紙一枚くらい)簡潔にまとめて」という趣旨であり、また、いまある紙のフォーマットをベースにするのではなく、最適なフォーマットで行うことを考えることが重要であるという。OCRは紙にどうしても紐づいてしまうイメージがあり、顧客の中には「私はOCRの担当だが他の事は担当でない」という人がいるが、このパターンはうまくいかないことが多いという。目的が先にあり、効率化のための一手段としてOCRがある、というほうがうまくいくのである。

 OCRを入れること自体は、がっつりとした導入になりがちであり、合計金額が合っているかどうかさえ分かればいい、ハンコが推してあるかどうかを検知できればいい場合、OCRでなくても良いのである。

 藤澤氏も、過去にかかわった顧客で、トラックドライバーはパソコンを持っていないので紙で勤怠情報などの記録を付けており、それをOCRで読み取れないかという話になったところがあったが、それは最終的にスマホでやればよかった、ということを指摘した。OCRは紙を残すソリューションなので、真のペーパーレスではないのである。

 

ユニバーサルデザインを考慮して紙を残すべきところもある

Cogent Labs岩瀬氏

 岩瀬氏も「取捨選択が大事であり、どこで紙を残して、どこでオンライン化、デジタルデバイスを使うかを取捨選択できているところは成功している」と指摘する。

 ただし、同時に紙を全部なくせばいいわけでもないという。なぜなら紙は現在のところ最高のユニバーサルデザインの「入力方法」であり、高齢者は紙が使いやすく、地方自治体や医療の現場では紙が残ることもあるのである。そのため、時にはハイブリッドで考えるべきところもあり、UXを考えたうえで、あえて紙を使う選択をすることもある、というのが岩瀬氏の感じたことだ。

 一方、デジタルペーパーやタッチパネルのような紙に替わるデバイスが、高齢者にもワークするシナリオもあるのではないかという議論もパネリストの間で行われた。ここで、デジタルペーパーとは、タブレットのようにタッチペンで書けるものではなく、書き心地、ページめくりなどがほぼ紙である電子デバイスのことだ。書き込んだものが裏側ですぐにデジタル化されるが、書く部分はアナログのまま残せるデバイスである。シナリオやデバイスをうまく選べば、紙を残さなくても良い場合もあるので、工夫する余地がありそうだ。

 西村氏も「本当に紙が必要か、監査、税務上必要なこともあるため、文書管理倉庫をどうするかなど、体制面も含めて判断できる人が推進しているとやりやすい」と指摘する。そのうえで、デジタルの側面をきちんと考え、クラウドサービスの利用など、投資を後回しにしないことを意識している会社はうまくいく、という。

 

<< 後編に続く >>