攻めのRPA、守りのRPAとは?

2021/06/23 コラム, スライダー



 IT投資は「攻め」と「守り」の2種類に分類することがある。近年では、たとえば経済産業省が2018年に発行した「DXレポート」でも、「攻めのIT投資」「守りのIT投資」という用語を使って、デジタルトランスフォーメーション (DX) に繋がる投資かどうかを述べている。同様に、RPAにも「攻めのRPA」「守りのRPA」という考え方が成り立つ。この記事では、この2つのRPAの使われ方について解説する。

攻めのIT投資、守りのIT投資とは

 「攻めのIT投資」はDXレポートの中ではDX の推進、すなわち、新しいデジタル技術を導入して、新たなビジネスモデルを創出するための投資」として触れられており、以下のような要素を含む。

  • 市場や顧客の変化への迅速な対応
  • 新たな技術/製品/サービス利用
  • ITを活用したビジネスモデルの変革
  • ITによる製品/サービスの開発
  • ITによる顧客行動/市場の分析強化
  • 事業内容/製品ライン拡大

 

 一方、「守りのIT投資」は「現行ビジネスの維持・運営(ラン・ザ・ビジネス)」として触れられている。

  • 定期的なシステム更新
  • IT化業務プロセスのIT
  • 業務効率化/コスト削減
  • 会社規模の拡大による投資
  • 法規制対応
  • 売上が増えたことによる投資

 

 日本では、米国と比べて守りのIT投資である「業務効率化/コスト削減」にかける費用の割合が圧倒的に高く、その他の項目ではあまり投資がされていないという。長く続いている企業では、IT投資に1990年代のオープン化、2010年代のクラウド化という波が押し寄せたが、過去のアーキテクチャがレガシシステムとして残存し、本来不必要だった運用・保守費を支払い続けていることも多い。こうした状態のシステムは「技術的負債」と呼ばれ、経営上のリスクになるものである。DXレポートによると、技術的夫妻と成り得るケースには以下の3つのケースが存在する。

  • メインフレームの温存: 銀行などに多く見られ、アプリの拡張やデータ抽出が高コストになっている。
  • 中途半端なオープン化: メインフレームのオープン化は行ったものの、アプリがCOBOL形式のまま、表形式データがテキストファイルのままになっている。
  • オンプレの単純なクラウド化: オンプレのシステムをIaaSでそのままクラウド移行したため、クラウドの利点を生かし切れていない。

 

ITの実装におけるRPAの活用

 ロボティック・プロセス・オートメーション (Robotic Process Automation : RPA) は、バックオフィスにで、既存のITシステム間の統合の隙間で発生する手作業を自動化する のりのような役割を果たすことができる。「守りのIT投資」は主にレガシシステム同士、またはレガシシステムと新システムとの間、「攻めのIT投資」はクラウドで行われることが多いが、クラウドと既存オンプレシステムとの間が完全に統合できないことはよく発生する。そのような場合に、いずれもRPAを活用することができる。

 

守りのRPA

 「守りのIT投資」の領域で活用するRPAは「守りのRPA」と呼ぶことができるだろう。先に出てきた「残存するレガシシステム」を全面的に刷新するまでの間、なるべく効率的に運用する目的でRPAを活用することができる。以下にその活用例を挙げる。

  • メインフレームからのデータ抽出: メインフレーム側のプログラミングでもできなくはないが、COBOL技術者やメインフレームがわかる技術者が貴重な現在では高コストとなりがちなデータ抽出について、RPAの中にはメインフレームのコンソールをシミュレートして画面から操作できるものがある。そのようなRPAを使えば、人間が画面操作を行うのと同様の方法で、決まった時間にバッチ処理でデータを抜き出して決まった形式で所定の場所に置いたり、他のシステムに入力するようなオペレーションを自動化することが可能である。
  • レガシシステムへのデータ入力: メインフレームをはじめとして、SAP、仮想デスクトップ経由でのアプリ、Webベースのアプリ、その他のパッケージアプリケーション、自社開発アプリケーションについても、RPAによっては画面操作で対応できるものがある。この機能を使って入力を入力フォームから行うことで、人間が画面操作で入力する手間を自動化することができる。
  • オンプレアプリとSaaSアプリとのデータ同期: クラウドを利用するようになると、API連携はSOAPRESTful Webサービスなどを使うことになる。もしくはWebベースのユーザーインターフェイスへの画面操作となる。RPAによっては、SaaSとのAPI連携、WebベースのUIにきちんと対応しているものがあるため、これを使うことで連携が可能になる。

 

攻めのRPA

 一方、「攻めのIT投資」の領域で活用するRPAは「攻めのRPA」と呼ぶことができるだろう。ITを活用した顧客分析、製品開発、ビジネスモデルの変革、変化への迅速な対応などが攻めのIT投資に分類されているため、これらを行うために導入する新しいシステムの周辺領域でのRPAの活用を攻めのRPAととらえることができる。ここでも、RPAITシステム間の統合の隙間で発生する手作業を自動化する のりのような役割を果たすことにより活躍することができる。以下にその活用例を挙げる。

  • 分析するデータのプレパレーション: 新しいものを作り出すには、まず手持ちの膨大なデータを適切に分析して傾向を分析したり、意味のある情報を抽出したり、発見的手法で新しいものを見つけ出していく必要がある。その時に使うデータは、様々なシステムから取り出し、あるべき形式に加工して準備 (プレパレーション)し、必要に応じて分析システムやAIのシステムに入力する必要がある。このようなつなぎの部分は手作業になることが多いが、RPAを使うことでこのようなデータ抽出、データ形式加工、データ入力を自動化することができる。

 

まとめ~RPAはシステムごとにばらばらに選ばずに単一プラットフォームを選択すべし

 このように、「攻めのIT投資」「守りのIT投資」のどちらにもRPAを活用することで、統合しきれていないシステムの間を のりのようにくっつけることが可能になる。ただし、その際、システム間の統合ポイントごとにバラバラのRPAを選んでしまうと、統合部分の管理が安全にやりきれなくなり、新たな経営上のリスクを生んでしまうことにもなりかねない。そこで、どのシステム間の統合にも使える汎用的な単一の「RPAプラットフォーム」を企業・組織内でひとつ用意しておき、さまざまなシステム間統合の隙間を埋めるように運用することをお勧めする。このようなRPAプラットフォームさえあれば、新たにIT投資を行ったとしても、その隙間を埋めて完全自動化のシステムをくみ上げることが可能となる。

 

DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~、経済産業省、2018年