エンタープライズ企業のための「次世代RPA」メディア

市民開発者の育成と過去のエンド・ユーザー・コンピューティングの苦い思い出、どう解決する?

2021/07/07 コラム, スライダー



 ロボティック・プロセス・オートメーション (Robotic Process Automation : RPA) を組織内横断で広めていくことを考えたときに、体制としてコアになるのはRPA推進部門、いわゆるCenter Of Excellence (COE)部門である。COE組織はIT部門や経営企画部門などから人を出し合って作ることが多く、ITの専門家も在席している。次の段階として位置付けられるのが各業務部門の中にいるロボットの開発者であり、必ずしもITの専門家ではない人たちである。この人たちは「シチズンディベロッパー」 (Citizen Developer) または「市民開発者」と呼ばれる。しかし、このIT専門家でないユーザーにプログラムを作成させるという発想は、実は昔から「エンド・ユーザー・コンピューティング」(End User Computing : EUC)という形で存在している。EUCにはメリットとデメリットがあり、一時期かなり流行ったがその後鎮静化した。この記事では、最近流行ってきている市民開発者とEUCの比較もしながら、あるべき姿について考えてみる。

エンド・ユーザー・コンピューティングとは何か?

 エンド・ユーザー・コンピューティングという言葉は、パソコンが普及する前の1970年代後半からあったようだが、現在の意味で使われるようになったのは、1990年代後半に、職場でパソコンが一人一台使えるようになってきたころからである。パソコン上でパッケージソフトウェアを使う以上に、個別の業務で使うソフトウェアをエンドユーザーが構築して利用することを、「エンド・ユーザー・コンピューティング」と言うことが多いようだ。

 EUCを可能にするのは、EUCによる拡張が可能なソフトウェアパッケージであり、たとえば1990年代後半によく利用されていたのは、Microsoft Excel VBAなどのマクロ機能、Microsoft Access、ファイルメーカー、Lotus Notesなどである。これらのソフトウェアを使うと、コンピュータスキルのあるパワーユーザーがちょっとした業務アプリケーションやユーティリティを構築して自ら運用することで、業務効率を上げることができた。

 

エンド・ユーザー・コンピューティングのメリットとデメリット

 EUCを使うと、型にはまった汎用的なパッケージアプリケーションを使う以上のパソコン活用を行うことができる一方、運用管理で課題が出てくる。代表的なものを以下に挙げた。

 

メリット

  • 現場の事情を理解しているユーザーによる、現場により即した実践的なツールを利用できる。
  • ソフトウェアの開発は現場で行われるため、IT部門からすると (見かけ上の) コストをかけなくても業務ソフトが手に入る。
  • 現場のITリテラシー向上につながる。

 

デメリット

  • システムの作りや管理・運用が属人化されやすい。担当者が異動・退社してしまうと中身がわからないということが発生する。
  • 同じ業務でも各部門で違うシステムを作ってしまい、全社的な効率化につながらないことが多い。
  • IT専門家が作るソフトウェアではないので、エラー処理やセキュリティなど、専門的なチェックが甘いことが多い。
  • どのように管理・運用されているのか、IT部門からは見えにくく、どこでどれくらい使われているか等がブラックボックス化する。

 

 1990年代後半のEUCは、最初はメリットに注目が集まり、広がっていったが、管理・運用が始まるようになると、デメリットが目につくようになり、IT部門からすると排除をして管理・統制に動く組織も出始め、一時期盛り上がったEUCの動きは鎮静化した。

 その後、EUCのデメリットのひとつである「管理・運用がブラックボックス化」を改善するため、クライアントだけの運用ではなく、クライアント/サーバ型の運用や、完全にサーバ側 (WebベースのUI)のみの運用を行うタイプのEUCが登場した。たとえば、Microsoft SharePointやサイボウズOfficeなどの製品である。

 

エンド・ユーザー・コンピューティングと市民開発者

 一方、Citizen Developerという用語は、2009年には少なくとも登場していたようである。2009年には、調査会社のガートナーが、これからはCitizen Developerが流行るであろうことを予測している※。この市民開発者とは、ノーコード/ローコード化などの開発ツールの進化や、デジタルネイティブ世代が労働者の中核を担うようになってくることにより平均的なITリテラシーが向上し、IT部門以外でのアプリケーション開発を行うパワーユーザーの事。ガートナーによる定義は以下の通り。

 

(原文) A user operating outside of the scope of enterprise IT and its governance who creates new business applications for consumption by others either from scratch or by composition.

(和訳) 企業ITとその統制の範囲外でオペレーションを行い、他のユーザーがゼロからか構成して利用する新しい業務アプリケーションを作成するユーザー。

 これを見ると、1990年代後半に使われていたEUCという単語と本質的な意味は同じであることがうかがえる。

 

同じ過ちを繰り返さないための留意点

 このように、EUCと市民開発者の概念はほぼ同義であることが分かった。そうすると、当初のEUCのデメリットが気になってくる。RPAでも「野良ボット」といわれる管理・運用ができないロボットが発生することが問題となったが、これはまさにEUCにデメリットに相当することである。

 まずはEUCのデメリットの改善点として出てきたものをRPAでも取り入れる必要がある。それはまさにサーバを取り入れた運用、つまり「サーバ型RPA」での運用である。

 また、このほかにもデメリットを最小化するための取り組みが必要となる。

  • サーバ型RPAでの運用により管理・運用を中央で行う。これにより、ブラックボックス化を防ぐと同時に、各部門で同じ業務に異なるロボットが作成されるのも防ぐ。
  • COE組織を中心にRPAプロジェクトを運営することで、品質や管理・運用に関しての標準や、上層部への見える化などを行う。
  • 作成するロボットは、市民開発者が作成したものをCOE組織でレビュー・テストするなどのプロセスを入れることで、属人化、品質低下を防ぐ。

 

まとめ

 市民開発者は、RPAの組織横断の展開を行っていくにあたっては必要不可欠なリソースである。その力をうまく活用し、同時に管理・運用をうまく行える体制を最初から作っておくことで、かつてEUCであったようなデメリットも防ぐことができ、企業での運用にふさわしい体制を作ることができるだろう。

 

Gartner Says Citizen Developers Will Build at Least 25 Percent of New Business Applications by 2014, October 22, 2009