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RPA市場はどのように計測されているのか?RPAはノーコードツールの一部?

2021/07/14 コラム, スライダー



 ここのところ外資系RPAツールに加えて国産RPAツールもいろいろなものが増えてきており、さらにノーコード/ローコードツールと呼ばれる似たようなツールもたくさん増えてきている。一方、RPA市場調査では特定のツールしか登場していないようにも見える。概念でいうとRPAツールはノーコード/ローコードツールの一部ではないのか?いったい調査会社はどのようにRPA市場を定義しているのか?この記事ではこのような疑問について、調査する立場から謎を紐解いていくことにする。

RPAツールとノーコード/ローコードツール

 ロボティック・プロセス・オートメーション (Robotic Process Automation : RPA)は、元々、人間が行っているパソコン業務のうち、主にルーチンワークをロボットにそのまま肩代わりしてもらうという概念である。そのため、「人がロボットに簡単に指示できる」という概念も内包される。この「簡単に指示」というのがノーコード/ローコードの概念と一致する。そのため、ツールの概念的にはRPAはノーコード/ローコードの一部と捉えることもできなくはない。

 一方で、現在「ローコード/ノーコードツール」と呼ばれているものは、いくつかのパターンに大別できる。ひとつはWebサイト (CMS) 、データベース、グループウェアなどのアプリケーションの構成やデータ変換を行うための付属ツール、また、ワークフローを構成するときのロジック構築ツールとしても使われる。しかし、RPAほど汎用的な目的で提供されているものはまだ無いように思える。そういう意味では、用途として現状は被らないとも言える。

 

調査する 市場はどのように定義されているのか?

 さまざまなドキュメントやWebサイトでよく見かける「~市場」という概念はどのように決められているのか?これは、実は調査を行う調査会社が決めているのだ。

 

調査会社の立場から

 調査会社は市場を定義するに当たり、調査対象となるベンダーまたは製品を決める。そして何らかの形でそれぞれの売上や展開社数、展開ライセンス数などを調べ、その積み上げで市場規模やシェア、浸透率などを計算する。調査の方法としては、ベンダーや代表的な販売店/ユーザーにヒアリングをする方法もあれば、より多くのユーザーに電話調査、インターネットアンケートなどで行う場合もある。

 

ベンダー・ユーザーの立場から

 調査会社は、自分で定義した市場カテゴリが正しいかどうかをベンダーやユーザーにもヒアリングを行い確認する。たとえば、商談で他に登場する競合製品についてヒアリングをしたときに、競合になる製品は同一市場、全く出てこない製品は異なる市場カテゴリということになる。RPA商談の場合、ベンダーにヒアリングをしてみると、前述のノーコード/ローコード製品やiPaaSの製品は競合として出てこないようである。従って、RPAとノーコード/ローコード製品、およびiPaaS製品は市場が異なると結論づけることができる。

 

同じようなカテゴリが混在する他の例: グループウェア、遠隔会議

 この市場の定義は複数の調査会社で見解が一致する場合もあれば調査会社ごとに異なる場合もある。RPAのカテゴリについては市場が分けやすく、複数の調査会社でコンセンサスが取られているが、そうでない市場もある。

 たとえば、グループウェア市場を考えるときに、グループウェアは複数のサブカテゴリの製品が含まれており、何をどこまでグループウェアに含めるかが調査会社によってだいぶ違う。また、調査会社によってはグループウェアに含まれるサブカテゴリを別途単体の市場として計測している場合もあり、それをグループウェア市場に含めるかどうかという判断をする場合もある。

 分類がややこしいもうひとつの例としては、遠隔会議のカテゴリがある。いまでこそ個人のパソコンやスマホからのZoomMicrosoft Teamsを使ったリモート会議が当たり前になりつつあるが、10年も昔は電話会議、テレビ会議、Web会議、テレプレゼンス、など、使用するデバイスが個人ベースなのか会議室設置型なのか、音声のみなのか映像もあるのか、などによってベンダー各社の実装が微妙に異なっており、また使うユーザー層も微妙に異なっていた (従業員同士が使うか、外部と使うか、経営陣同士で使うか、など)ため、調査会社によって市場の定義や含まれる製品がバラバラだった。

 

市場シェアの種類

 ひとことに市場シェアと言っても、何を測るかによってどの製品が上位に出てくるかが異なってくる。

 

導入社数ベース

 ベンダーや販売店への聞き取り、ユーザーへの調査などから算出する。企業に1ライセンスもしくは数ライセンスしか売れないものの場合は、導入社数を数えることが適切である (たとえばERPCRMなどの業務システムなど)。オープンソースソフトウェア、フリーソフトウェアなど、ベンダーや販売店が絡まない製品の場合は、この調査で上位に名前が出て来づらい。また、1企業で全従業員分のライセンスまで売れるポテンシャルがある場合は、この数だけからはシェアは正しく判断できない。RPAの場合も、小さく1ライセンスだけ入っている場合と、全社展開でライセンスが沢山入っている場合があるため、どれだけ組織内でRPAが浸透しているかはこの数からは判断できない。

 

売上金額ベース

 これもベンダーや販売店への聞き取りを中心に調査を行い算出する。ベンダー同士のライセンス体系や価格帯が大きく異ならない場合 (競合製品同士なので似通っていることが多い)、金額ベースで比べると、出荷されているライセンス数の比率を比べることができるため、企業内での浸透率も含めてより予想しやすいシェアが算出できる。この方法も、オープンソースソフトウェア、フリーソフトウェアなど、ベンダーや販売店が絡まない製品の場合は、この調査で上位に名前が出て来づらい。また、ライセンス体系や価格が大きく異なる場合 (RPAだとたとえば大企業向けの外資系RPAと中小企業向けの国産RPAを比べる場合など)、適切なシェア比較にならない場合がある。

 

展開ベース

 製品を利用しているかどうかをユーザーにヒアリングして展開数を算出する方法である。対象市場のユーザー数が膨大な場合、サンプリング調査をすることになる。方法としては電話でのヒアリング、Webや郵送でのアンケートなどである。この手の調査は大抵の場合、サンプル数n=1,000程度を取るのがやっとである。しかし、このn=1,000が母集団 (たとえば日本の全企業約400万社など)を代表する均質なサンプルなのかどうかというのが問題になる。たとえばWebで調査をすれば、対象になるのは比較的ITリテラシーが高い企業になる。また、サンプル数が多くない場合、データの精度も問題になる (しかし大抵の場合、調査結果はそれをあまり考慮せずに有効数字も算出しているケースが多い)

 

アクティブユーザー数

 従業員ひとりひとりがライセンスを利用する製品の場合、実際に利用しているユーザー数がわかるようであれば、それが真のシェアということになる。オンプレミス製品の場合はこれを測る方法はないが、クラウド製品であればベンダーがトラフィックデータから計測することができる。ただし調査会社はこれをベンダーから知ることしかできないため、往々にして大本営発表になりがちである。ただし、Oktaのようなシングルサインオンサービスをさまざまなクラウドサービスに提供しているサービスの場合、ユーザーがサインインするたびにOktaにもトラフィックが来るため、Okta側で客観的なデータを取ることができる。このようなデータも公開されている。

 

その他のシェア

 その他にもシェアに近い性質を持つ数字は存在する。たとえば以下のようなものである。

  • 導入予定数: ユーザー企業に今後の導入予定をヒアリングして算出したもの。
  • 認知度: ユーザー企業に製品を認知しているかどうかをヒアリングして算出したもの。純粋想起 (ヒントを与えずに答えてもらう)と助成想起 (製品名などを提示して知っているかどうかを尋ねる) の方法がある。

 

市場シェアの値が算出しにくい場合

 いずれのケースについても、調査会社は市場を定義するときに対象となる製品/ベンダーを決めているため、突然出てきた製品/ベンダーが大きなシェアを取ったり、他のカテゴリにあった製品/ベンダーが新機能を実装した結果、いままで被らなかった市場が被るようになるなどの大きな変化が起こった場合、データの信頼性が著しく下がる。また、それなりに大きなシェアを持っている可能性がある製品がたくさんある場合も調査会社が調査すべきベンダー/企業数が急増するため、調査会社泣かせである。RPA市場の規模やシェアは、現在のところ調査会社によってかなり異なっており、市場規模も2倍程度異なっている。これは、RPA市場を計測することが結構難しいことを意味している。

 また、3月にMicrosoft Power Automate Desktopが今までと異なる形でRPA市場に大きく参入してきており、それなりのシェアも取ると予想されることから、調査会社はいままでの調査データに大きな変更を迫られるであろう。また、今後、他のカテゴリのノーコード/ローコード製品がRPA市場に融合してくることも考えられるため、今後もずっとRPA市場というカテゴリのまま市場が動いていく保証もない。以上のことからRPA市場は調査会社にとって調査が結構難しい市場だということが想像できる。

 

まとめ

 以上、見てきたように、一言に「シェア」といっても背景にはさまざまな前提や特徴が存在する。そのため、ベンダーはこれらをうまく利用すると、自分をより大きく見せることも可能となる。場合によっては複数のベンダーが異なる方法でそれぞれシェアNo.1を主張している場合もある。そのような場合、この記事の内容を知っていると、ユーザーとしてはベンダーのトリックに引っかからずに、より真実の姿に近い情報を得ることも可能になるため、市場シェアの定義についての情報は、ユーザー企業の購買担当者であればぜひ知っておきたいところである。