RPA導入が失敗する原因と課題解決の方法

2021/10/18 コラム



最近、企業や自治体でRPA(Robotic Process Automation)の導入を検討することは珍しいことではなくなってきた。コロナ渦や働き方改革などで長時間の勤務などは見直されており、多くの企業や自治体で業務の効率化が進んでいるのも大きな要因である。では、既にRPAを導入した企業や自治体でははたして効果が出て、業務の自動化はうまくいっているのであろうか?その結果、本当に業務にかける時間が削減され、働き方改革などは進んでいるのだろうか?ここではRPA導入・運用でよくある失敗事例・原因・課題解決方法などについて解説する。

RPA導入の基本的な流れ

まず、確認としてRPA導入の基本的な流れについて解説する。

①RPAで自動化する業務を洗い出す
対象業務の洗い出しはRPA導入時には最も重要なフェーズである。企業や自治体にはさまざまな内容の業務があるが、RPAの適用が適している業務には以下のようなものがある。

- 同じ作業を繰り返す業務
- 作業手順やルール変更の少ない業務
- 2重チェックなどを必要とするミスの許されない業務

②RPAツールの選定
対象業務の洗い出しができたら利用するRPAツールを選定する。ツールの使い勝手などの特徴やライセンス費用を把握し、機能と予算面から検討することが重要である。

③テスト導入・効果測定・課題洗い出し
次に、対象業務を一部切り出し、小さな範囲でRPAをテスト的に導入し、ツールの扱いやすさ・業務自動化の効果・誤動作や見落とし業務など、さまざまな課題を洗い出し本格導入のための情報を収集する。

④再度対象範囲の洗い出し
テスト導入の結果から課題が明確になり、RPAの特性や対象業務との相性、業務の自動化への適正などもわかるため、再度対象業務を検討し範囲を確定させる。

⑤本格導入
洗い出した対象業務に対してRPAを全面的に適用し本格導入を行う。

⑥運用・保守
RPAでは導入後の運用・保守が非常に重要である。導入はスタートに過ぎず、運用に入ると業務も変わりRPAの機能も変わるため、しっかりとしたフォローが必要である。また、さまざまな業務へのRPAの適用をうまく定着させるためにも、現場へのQ&A対応や支援を行う専門チームなどの設置も重要な検討事項である。

 

RPA導入・運用でよくある失敗事例

次に、RPAの導入・運用でよくあるいくつかの失敗事例について解説する。

 

業務の分析不足でRPAの自動化特性を発揮できず導入効果がでない

RPA導入において最も多い失敗は、業務の分析が十分でないままRPAを適用し十分に効果がでないケースである。例えば、事前の業務分析では定型パターンが多いと思い込んでしまいRPAを導入するも、実は業務の一部で必ず人間の判断を必要とする場合などは、RPAでの自動化は適さず効果が出ない。このように業務分析が不十分なまま、多くの業務が自動化可能と判断し導入しても、実際にはRPAに向いていない業務を対象としていまい、効果を実感できないというケースが多い。

 

RPAのメンテナンス特性を理解せずに導入し、逆に業務が増えてしまう

RPAのメンテナンス特性をよく理解せずに、業務フローの変更が多い対象にRPAを適用し、メンテナンスの負荷が逆に増大してしまうケースである。RPAによる業務の自動化は一度の設定だけではなく継続したメンテナンスが必要である。例えば、業務フローが変更になったり、外部との接続ルールが変わったりする度にRPAの設定変更が求められる。このことを理解していないと、RPAによる削減時間よりもメンテナンス時間が上回り、逆に業務時間が増えてしまうこともある。

 

RPAの内製化ができないケース

RPAはプログラムレスで扱えることもあり、内製化しメンテナスの修正なども自分たちやれる、と考えてしまいがちである。ところが、ツールによっては内製化できずに、結局提供ベンダーやSIerなどに外注せざるを得なくなるというケースがある。RPAの内製化は、自分たちで導入ができるだけでなく、実装したBotを安定稼働させることができるということでもある。例えば、画像認識を使うRPAは、ツールの種類によっては画像認識率などの性能にバラつきがあり、扱いが難しく安定した稼働ができないことがよくある。このような場合は内製化できずに提供ベンダーやSIerなどに外注せざるを得なくなる。

 

 

RPAの導入が失敗する原因

次に、RPAの導入が失敗する代表的な原因について解説する。

 

業務内容の整理ができていない

RPAの導入時に最も重要と言えるのが、自動化に適した業務を選択することである。そのため、業務内容の整理ができていないと、的確な対象業務を絞ることも選択することもできない。そして、そのままRPA適用の対象業務をなんとか決めてしまい、RPAに不向きな業務の自動化を図るなど、失敗の大きな原因となる。

 

目的が不明確なまま導入

RPA導入の目的が不明確だと、導入する現場などにも悪影響を与えてしまうことがある。例えば、経営者層のトップダウンでRPAを導入する場合である。このような場合、RPAの導入自体が目的となり、現場には本来あるべき導入の目的や意義が不明確なまま、業務担当者の理解や協力もうまく得られず、結果としてRPAの導入効果が発揮できない原因の一つとなっている。

 

RPA担当者や運用体制が未整備でマニュアルなども不十分

RPAが運用に入ると、現場部門へのRPAの定着作業なども必要である。そのため、現場部門への支援が求められRPAを推進する担当者が必要とされる。また、業務フローの変更時などにはRPAの修正対応も必要で組織的なRPA推進体制が求められる。それにも関わらず、RPAが稼働した後は簡単なマニュアルだけで運用を現場に任せることも多く、これがRPA失敗の原因となってしまう。

 

セキュリティ対策の考慮漏れ

RPAはデータの集約作業などを行うことが多く重要なデータも扱う。そのため、RPAのシステム権限は強く設定されることが多く管理が重要である。したがって、セキュリティ対策が適切に考慮されていないRPAシステムは大きな問題となる。例えばデスクトップタイプのRPA(通称RDA:Robotic Desktop Automation)や、認証情報の秘匿化が正しくできていないRPAは、重大なセキュリティホールがあり個人情報の流出リスクがあるため問題となっている。

具体的な事例で説明をすると、RPAが使用するログインIDとパスワードを、実際に権限を持つユーザー以外が確認することができる場合、パスワード漏洩とほぼ同じリスクである。多くのRPAではRPAサーバ側でIDとパスワードを管理しているが、システム管理者やRPA開発者など複数の担当者が中身を確認できるようなシステムはセキュリティリスクがあると認識され、この場合は、クリティカルな業務には使えないなど、導入が失敗する大きな原因の一つとなる。そのため、セキュリティを考慮した適切なツールを選定することが極めて重要である。

 

 

RPAの導入失敗の課題解決方法

最後に、RPAの導入失敗に対する代表的な解決策を解説する。

 

業務を絞ってスモールスタートで再スタートする

業務を分析しRPAを導入したにもかかわらず、思うように成果がでないことがある。その場合、まずはRPAを特に積極的に活用したい業務などに絞って、再度、導入・運用を見直すことなどを推奨する。丁寧に課題を分析・解決しながら進め、成果が出た時点で、再び少しずつ対象業務の範囲を拡大することが重要である。

 

導入の目的などをあらためて現場に共有する

前述したトップダウンでの導入ケースなど、本来の目的が現場にうまく伝わっていない場合、再度丁寧にRPAの導入目的・業務フロー変更の必要性などを現場に説明し直し、業務の自動化などの意思統一図ると自ずと導入効果は出始めるであろう。

 

RPAを推進する人材を確保しRPA推進組織の再構築をする

RPA専任者などを配置せずにRPAの導入がうまくいっていないケースでは、まずRPAの専任人材を確保し推進組織を再編成するなどして、新たな導入や運用を組織的に推進することが必要である。特に運用では修正対応などのメンテナンス、社員へのQ&A対応、トラブル時の対応などもスムースに進むようになるであろう。

 

セキュリティ対策を考慮した上でRPAの導入を再検討する

前述の通りセキュリティの対策漏れが原因でRPA導入が失敗することもある。その際には再度対象業務のセキュリティ要件の見直しやRPAの権限管理の強化、RPAのタイプをRDAからサーバータイプに替えるなどの見直しも必要である。

 

まとめ

以上述べてきたように、RPAの導入ではありがちな導入失敗パターンが存在する。今後、RPAでの業務の自動化はより加速すると考えられ、導入の方向性は間違っていない。導入成果が出ないとしても、ここで諦めるのではなく、専任組織の再編成や導入目的の明確化などを進め、再度チャレンジするとRPAの成果は自ずと出てくるであろう。