前編では、現場に当事者意識を持たせ「自分ごと化」させることが、RPAの導入・展開における初期段階でのポイントであることを紹介した。しかし、ボトムアップによりRPAが自走を始め全社展開を進めるフェーズになると、組織の力を使ったり、トップダウンで取り組むことが重要になってくる。
教育制度や社内エバンジェリスト
全力で個別にサポートすればよかったパイロットプロジェクトと異なり、複数の部署に同時に展開していくには「仕組み化」することが必要になる。一気に大量のリクエストや業務が発生し、推進チームのリソースも足りなくなりがちになる。組織の力を利用して、推進する部署の整備とともに、教育制度を整えていく必要がでてくる。
- 最初の研修プログラムを準備する
- 社内で認定制度を整える
- セキュリティポリシーなどを整備する
- パイロットプロジェクトの旗振り役となってくれた現場の導入リーダーに、他の部署への啓蒙活動を行ってもらうなど「社内エバンジェリスト」「アンバサダー」として活動してもらう
米系RPA企業であるオートメーション・エニウェアでカスタマーマーケティングを担当する長橋明子氏は、「こうしたことは、現場の取り組みを評価することや、先導役になってくれたメンバーへの評価にもなる上、推進チームの代わりに現場が自ら他の部署に宣伝してくれるなどのメリットもあります。ちなみに、ロボットに愛称をつけるというのもよく聞く話で、名前次第で“愛されキャラ”になることもあります」と、その効果を指摘する。
表彰などのレコグニション
社内エバンジェリストにも近いが、うまくいったプロジェクト事例を全社の会議などで紹介し、部署やメンバーを表彰すると、現場のモチベーションが格段に上がる。
「RPAを適用して大きな成果が出るのは、バックオフィス系の業務を担う部署が多いようです。従来手作業でプレッシャーのかかる業務を、あまり評価されない中でこなしてきた人が、RPAを導入して業務効率化に成功して社内で注目されるのを見ると、導入を支援した立場としても胸が熱くなります」(長橋氏)
普段、見えないところで会社を支えてくれている人が、RPAという武器を手に入れて業務を効率化し、会社をリードするというのは、RPAでなければできないことである。
上司からのサポートの重要性
ロボットを作るのが現場の人である場合、本業が別にあるため、RPAプロジェクトはあくまで兼務ということになる。当人がやりたいと言っても、業務として認められなければやり切ることはできない。そこで大事になるのが、上司からのサポートだ。
「部署として公式にRPA導入が認められ上司からのサポートがあれば、やる気のある人はどんどんやることができます。RPAの研修をするときに、担当者だけでなく必ず上司にも同席してもらい、RPAについて理解をしてもらうようにするという企業もあります」(長橋氏)
社内プロモーション
RPA導入に手を挙げる部署を増やすため、社内でのRPA認知向上に力を入れている企業も多い。全社会議での組織長や部門長への報告はもちろん、社員への認知を高めるための活動だ。社員一人ひとりに説明するのは難しいため、以下のような方法で社内でマーケティング的な活動を行い、認知を拡大させるのだ。
- 社内でRPAのポータルサイトを立ち上げて、事例の発信、案件の募集、ドキュメントや部品の配布を実施する
- デモムービーや紹介ムービーを制作して載せる
- 組織間での成功事例紹介を積極的に行う
- RPAの取り組みを社外に発信(PRや社外事例、登壇など)することで、社外での評価を高め、そこから社内の認知を高める
「メディアや導入ベンダーがつくる社外事例でプロジェクトメンバーを登場させると、メンバーのモチベーションが向上するという話もよく聞きます」(長橋氏)
さらにスケールさせる
全社展開が進み、特定の部署だけでなく、複数・多数の部署へのRPA導入が進んでくると、その次の課題は以下のようなことだ。
- 残った部署にどう展開するか
- グループ企業や海外へどう展開するか
- AIをどう活用するか
- アナログ(紙、手書き)が残る部分をどう自動化するか
ここから先にまで進んでいる企業は、まだそれほど多くないというのが現状のようだ。1年後、2年後にさらに進んだ企業が増え、ナレッジが溜まっていることを期待したいところである。
RPAは会社を変えるか?
ここまで、RPA導入を内製している企業の取り組みを紹介してきたが、内製には賛否両論ある。必ずしもすべての企業にとって正解とは限らない。それでも、自分たちが日々不便やストレスを感じている業務の一部分を、RPAという武器を手に入れることで「ちょっとした改善を、武器を使って自分でやる」という雰囲気になることには価値がある。ヘルシーな組織文化であることは間違いないと言えるだろう。
RPAというツールが登場したことで、技術が一部のエンジニアやプログラマー経験のある特定の人たちのものから、一般の人たちのものになってきた。いわゆる「ITの民主化」ともいえるだろう。「RPAを自分の武器にして、ちょっとしたカイゼンを続けることが当たり前になれば、日本企業はもっと強くなれる」と長橋氏は期待を込めて話している。