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デジタルトランスフォーメーション (DX) と業務自動化 (RPA) の関係性は?

2021/02/19 コラム



  デジタルトランスフォーメーション (Digital Transformation: DX)という言葉は、20189月に経済産業省がいわゆる「DXレポート」※1と呼ばれる文書を公開してから、日本でもかなり広まってきているようである。日本での歴史を振り返ると、経済産業省と東京証券取引所が、デジタル技術を前提としたビジネスモデル・経営変革に取り組む上場会社を「DX銘柄」として選定する取り組み※22015年から始め、この時期からDXという用語が少しずつ日本でも広まってきたようだ。一方、RPAに代表される業務自動化も2017年頃から広まってきている。これらの2つの取り組みは、企業内では別々に行われている場合も少なくない。この記事では、これらの2つの取り組みの関係と、あるべき取り組み方について掘り下げてみる。

デジタルトランスフォーメーションの推進とは?

デジタルトランスフォーメーションはデジタル化やデジタライゼーションとは違う

 デジタルトランスフォーメーション (DX) とは、簡単に言うと「新しいデジタルテクノロジーを使って新しいビジネスモデル/製品/サービス/関係を創出して競争上の優位性を確立する」ことである。新しいデジタルテクノロジーとして使われる一般的なものには「ソーシャル」「モバイル」「クラウド」「ビッグデータ/アナリティクス」「IoT」「AI/認知技術」「ロボティクス」「3Dプリンティング」などが挙げられる。

デジタルトランスフォーメーションとは?そのために必要なことは?

 ここで注意したいのは、デジタルトランスフォーメーションは、情報のデジタル化 (デジタイゼーション)やプロセスのデジタライゼーションとは異なることだ。つまり、紙の情報を単純にデジタル情報に変換しただけ、回覧板で行っていた稟議プロセスをワークフローツールで行うようになる、ということはデジタルトランスフォーメーションをしたということにはならない。

 

DX銘柄企業の取り組みとは

 企業価値の向上につながるDXを推進している先進的な企業「DX銘柄企業」について、東京証券取引所に上場している企業の中から選定する仕組みが2015年から毎年行われている。これは東京証券取引所と経済産業省が協働で行っており、DXを推進する仕組みを社内に構築し、優れたデジタル活用の実績が表れている企業を選定しているとのこと。

 2020年については、「デジタルトランスフォーメーション調査2020」の回答内容から、6つの項目と財務指標についてスコアリングした後に、DX銘柄評価委員会の最終選考を経て、最終的に35社を選定している。6つの項目とは「ビジョン・ビジネスモデル」「戦略」「組織・制度等」「デジタル技術の活用・情報システム」「成果と重要な成果指標の共有」「ガバナンス」となっている。特に優秀な企業は「DXグランプリ2020」として選定している。

 ここで挙げられているDX優良企業の事例を見てみると、アウトプットとして新技術を使ったビジネスモデルの変革が達成されている。たとえば建設現場の機械などにIoTを導入して建設現場のデータをためてソリューションプロバイダに開放する小松製作所の取り組み、最新のIT技術と高度なデータ分析を利用することで流通の納品待ち時間をゼロにするモデルを構築したトラスコ中山の取り組み、クラウド型ビル監視制御システムの導入により、高齢化・人手不足が進む建設業界で、エンジニアが現地へ赴く頻度を減らす鹿島建設の取り組み、などがある。

 

日本企業全体で見ると9割以上がDX未着手

 一方、日本企業全体で見ると、まだ全体の9割以上がDX未着手 (DXについて知らない)だったり、DX途上 (散発的な実施にとどまっている)であり、DXが推進しきれていないという現実も経済産業省が報告している※3。デジタル変革に対する現状への危機感を持つ国内企業は増加しているものの、「DXの取組を始めている企業」と「まだ何も取り組めていない企業」に二極化しつつある状況であるという。

 

デジタルトランスフォーメーションと業務自動化

DXと業務自動化は果たして関係あるのか?

 ここで、本題であるDXと業務自動化の関係性について見て行こう。DXの特徴として「デジタル」を使うことと「競争上の優位 (差別化)」を獲得するという2軸があるため、これで4象限 (クアドラント)を作成してみよう。

DXまでの道のり4象限

 

 この場合、右上の「デジタル化」「差別化」のクアドラントがDXとなる。一方、差別化要素でない「一般的」な戦略をデジタルで行うことは、先に出てきた「デジタライゼーション」に相当する。また、旧来の「アナログ」の方法で行う業務は、「差別化」されているものは「職人技」に相当するだろう。特定の人にしかできない技能だったり、秘密の知識がないと期待する業務が遂行できない、といったものだ。たとえば、最高級の伝統工芸品を作る、とか、大粒でおいしいイチゴを作る、複雑な機械を5分で直す、などがこのクアドラントに相当する業務だろう。そしてその他、どの企業でもやっているような事務処理、承認業務などは「一般的な旧来の業務」に分類される。

 

自動化/デジタル化するだけではDXにならず

 業務を「デジタル化」する意義を改めて復習すると、デジタル化によりいままでは18時間の中で人の労働力を事務所や工場内で配置して効率を最大化するという制約があったのが、これらの制約がなくなり、時間、場所、人の労働力に縛られない業務遂行が可能になる。「業務自動化」は、時間と場所の制約を受けなくなったデジタル世界に移行した情報を人力の処理からコンピュータへの処理に移行することである。そのため「業務自動化」は工場での生産ライン自動化などの物理的な自動化を除くと、大抵の場合「デジタル化」が前提となる。そしてRPAは業務自動化の中の1手法であり、業務システムの導入によるスキマのアナログ部分をデジタル化する仕組みである。

「デジタル化」は上の象限への移行、そのままではDXにならない

 

 ここで、4象限を使って業務の「デジタル化」の意義を考えてみる。この4象限の中では下半分が「アナログ」、上半分が「デジタル」であり、「デジタル化」は、下半分の象限から上半分の象限に垂直に移行することを意味する。したがって、いままでアナログで行われてきた一般的な旧来の業務は、業務プロセスのデジタル化である「デジタライゼーション」が行われることになる。このデジタル化の過程では、新しい業務システムを入れたり、レガシーシステムを刷新したりRPAを導入したりといったことが行われる。しかし、象限を見てわかる通り、単純にデジタル化するだけでは、アナログ業務が「デジタライゼーション」されるだけであり、DXには至らない。

 業務のデジタル化自体には、わりと体系化されたベストプラクティスが存在し、どの企業もそれに従ってデジタル化を行えば業務の「デジタライゼーション」は行うことが可能だ。一方、デジタル化自体はそのままDXにはつながらない。これが多くの企業がはまっているポイントではないだろうか。つまりレガシー業務を単純にデジタル化、もしくはレガシーシステムを刷新するだけで満足してしまっており、デジタライゼーションで止まってしまっているのである。

 

積みあがったデジタルデータを活用して差別化につなげる

 それでは、何をすればデジタルの力を活用してDXまでつなげられるのであろうか。DXの象限に移行するには3つの方法が考えられる。最初から全く新しいモデルとして新しいビジネスモデルを生み出すこともできるが、これは起業/企業内起業に相当することでもあり、この記事では扱わない。残る2つの方法のうち、まず、デジタライゼーションをDXにつなげる部分について考えてみる。

DXに到達する3つの方法

 

 デジタライゼーションを行うことで、いままで人の頭の中や紙に記載されていた情報がデジタル化され、一か所に集まり活用できるようにすることができる。また、人や部門独自の手法に依存しない方法に一般化することも可能である。既存業務を単純にそのままデジタル化しただけだと、まだ人や部門独自の手法に依存してしまっている部分があるが、これは業務改革 (Business Process Reengineering: BPR) を行うことで一般化、効率化することができるだろう。

 ただ、BPRを行った後の一般化、効率化されたデジタル業務フローからDXに直接つながるわけではない。DXにつなげるには「差別化要素」を足さないといけないからだ。そして、これは企業によらない一般化されたベストプラクティスがあるわけではないのが現実である。

 4象限で左から右への移行を実現する一つの手法として、一か所に集まった膨大な情報から金の卵を見つけてみるという手法がある。これは「ビッグデータの活用」と呼ばれるものである。アナログの世界ではデータを再利用できる形で一か所に集めることが難しかったのであるが、デジタル化することで一か所で全体を見渡すことは可能になる。したがって、その中から金の卵を発見できるようになることはデジタル化した結果である。そして、金の卵を発見する作業を行うのは、デジタル化のインフラ構築を推進したIT技術者ではなく、現場業務をきちんと理解している現場の担当者であることが望ましい。

 ただし、金の卵の発見は、やれば必ず見つかるものではなく、あくまでも「発見的手法」によるものであり、掛けた労力が必ずしも報われるものではないことに注意が必要である。日本で高度成長期から続く業務遂行の手法の伝統として「努力すれば報われる」「作業した分だけ結果が出る」といった農耕文化が根付いているが、データ分析は「失敗を許容する」「常に試行錯誤」という狩猟文化が必要となる。加えて、そのような挑戦ができるように、人的リソースに余裕を持たせる必要がある。これには業務自動化による効率化、その結果生まれる人的リソースの余裕を活用することができる。

 

職人技のデジタル化でDXに繋がるか?

 一方、アナログで差別化が行われていた「職人技」は、当事者からの反発もあったりとデジタル化が難しい分野でもあるが、うまくデジタル化できれば、既存の差別化要素をより強化して、より長い間競争優位を保つことができる可能性がある。幸運にもアナログで差別化要素を持っている企業は、その要素のデジタル化を行うことで、知識や技能の継承も含め、DXにつなげることができるだろう。

 

デジタルトランスフォーメーションにつなげるための処方箋

 さて、いままで見てきたことを元に、デジタル化をDXにつなげるために気を付けるポイントを改めておさらいしてみよう。

 

業務自動化は既存業務から余剰リソースを引き出す

 DXにつなげるための取り組みを行うには、企業内でそれに取り掛かれる人材の確保が必要である。それには既存業務をより効率的に行うことで、現場メンバーの人的リソースに余裕を持たせることが重要である。ここで業務自動化 (業務のデジタル化、ペーパーレス、システムの導入、システムのスキマのアナログを埋めるRPAによる自動化)を行う意義がある。

 また、システムにはSoR (System of Record: 記録のためのシステム)SoE (System of Engagement: 顧客との関係構築のためのシステム)があるが、旧来からデジタル化が進んでいたSoRに加えて、アナログがメインであったSoEの部分をいかに戦略的にデジタル化できるかがポイントとなってくる。それにより、DXにつながるデータ分析に必要なデータもより多く集められる可能性がある。

 

DXに繋がる可能性の仮説を立てPDCAを回す

 DXに繋げる取り組みはベストプラクティスが存在するわけではなく、常に試行錯誤を伴う。そのため、仮説を立てて実行してみて検証して結果を見て、軌道修正をしていくというPDCAサイクルをいかに速く回すかが重要になってくる。それには、業務遂行の考え方として失敗を許容する文化、評価制度の導入が不可欠となってくる。つまり、DXの推進には企業文化や制度をも変革する必要が出てくる。

 

人材の課題~余剰リソースがDXを探求できるスキルを持つか?

 また、DX推進の際に課題となってくるのが、集まったデータを分析できるスキルを持つ人がいなかったり、新しいことにチャレンジする人材が少なかったりという課題が出てくることがよくある。理想としては業務自動化で余裕が出た人材にDXの取り組みを行ってもらえることであるが、人材のミスマッチが起こる可能性も十分にあり、その時は外部の人材を採用したり、一時的に外部委託を行ったりして企業外からのリソースを活用するといった決断が必要になるだろう。

 

まとめ

 以上、見てきたようにデジタル化や業務自動化を行えばそのままDXにつながるというわけではなく、多くの日本企業がDXに取り組み切れていない理由もそこにあると想像できる。デジタル化という武器と、失敗を許す企業文化への変革の両方をうまく取り入れて、DXにつながる可能性を早期に試行錯誤してみることが、いまの企業経営者に求められることである。

 

 

1 デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会の報告書『DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』をとりまとめました、経済産業省 20189

2 「DX銘柄2020」「DX注目企業2020」を選定しました、経済産業省 20208

3 デジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会の中間報告書『DXレポート2(中間取りまとめ)』を取りまとめました、経済産業省 202012