2017~2019年頃に比べると、注目度がひと段落したといわれるRPA (Robotic Process Automation: ロボティック プロセス オートメーション)。一方、2021年は、マイクロソフトがWindows 10向けにデスクトップ型RPAを追加費用無しで同梱したり、ServiceNowがRPAベンダーを買収したり、UiPathのような大手RPAベンダーが新規上場 (IPO) を計画したりと、RPA業界もいろいろとニュースが多い。そんなRPAが「キャズム」を越えるのかどうか、この記事では検討をしてみた。
キャズムとは何か?
ハイテク業界で良く使われる「キャズム」という用語。これは、ジェフリー・A・ムーア氏が1991年に出版した「Crossing the Chasm」(邦題: 『キャズム』)の中で述べられているハイテク業界での新技術の普及に対するマーケティング理論である。簡単に言うと、新技術は普及する段階でイノベーター、アーリ―アダプターと呼ばれる新技術に敏感な層のユーザーに導入されていくのだが、その先のマジョリティ層にはすべての新技術が到達できるわけではなく、”キャズム” と呼んでいる谷が存在し、これに落ちて消えていくものと、谷を越えてマジョリティ層に到達し、メインストリーム化できるものに分かれる。キャズム理論では、キャズムに落ちるものと越えるものの違い、そしてキャズムを越えるために”ボーリングのピン”をいかに倒すかを説明している。
RPAの企業への導入率は11%~20%程度
キャズム理論によると、イノベーターは全ユーザーのうちの2.5%程度、アーリ―アダプターは13.5%程度存在するとのことで、これらを足すと16%になる。つまり、16%以上普及すれば、マジョリティ層に到達していることになる。
ところで、RPAの普及率に関する調査は、さまざまな母集団に対して行われている。年商50億円以上の大企業では40%程度※1、一方、年商50億円未満だと11%程度※1というデータもある。大企業に限るとキャズムは越えているが、中小企業まで入れるともう少し先ということになる (ただし、この統計もn=1,000程度なので全数調査からは程遠く、全体を反映しているとは限らない)。また、キャズムと似たような考え方としてガートナーのハイプ・サイクルがあるが、これでも、「幻滅期を抜けて本格的な普及期に入りつつある」という評価になっている。
出典: MM総研※
越える?越えない?
それでは、全企業を母集団にした場合、RPAはキャズムを越えられるのだろうか?この答えは「イエス」である可能性が高いと多くの調査会社は見ているようである。ひとつは、まだ導入数に表れていない導入意欲を表している企業の割合である。中小企業でも、準備検討中の企業がだいたい25%くらいいる※1ことが調査に表れているため、1~2年後には、このうちの何割かが導入済みに替わっている確率が高い。そうすると、1~2年後には導入率は20%位になると思われる。
普及率が20%を越えてくると、価格自体もさらに下がってくることが、Excelなど過去の製品を見てみると予想される。そうするとさらに普及が早まるといったサイクルになる可能性もある。Windows 10にRPAが標準搭載されることも、RPAの普及にはプラスに働くだろう。