【2021年版】Automation Anywhere A2019の特長を簡単解説

2021/02/10 TIPS



 ロボティック・プロセス・オートメーション (RPA: Robotic Process Automation)のソフトウェアは日本市場では数十種類が利用できるが、ツールは主に2種類に分類できる。ひとつは主に個人のデスクトップPC上での生産性向上を行うためのデスクトップ型RPA (RDAとも言う)、もうひとつは組織全体の生産性向上を行うためのサーバ型RPAだ。この記事では、主要なサーバ型RPAツールの一つであるAutomation Anywhereについて、特長を簡単に解説する。

Automation Anywhereはどれくらい使われているのか?

 Automation Anywhereは20212月現在、全世界で4,000社以上の顧客を持ち、本番稼働しているボットの数は260万以上に上るという。単純計算すると、1社あたり650のロボットが稼働していることになる。1社で数十ロボット以上が稼働している企業はあまりないため、Automation Anywhereの顧客は大規模な展開に成功しているところが多いことになる。

 

グローバルで2強に入る

 グローバルの様々な評価機関や顧客ベースのレビューによる評価を見てみると、Automation Anywhere2強に入っていることがわかる。Gartner RPA magic QuadrantEnterprise Technology Research RPA NetScore and MarketShareThe Forrester WaveEverest Group RPA Peak MatrixGartner Peer Insights Customer ChoiceG2 Grid for RPAなどである。つまり、高い市場プレゼンスと高い顧客満足度の両方があることになる。

 

日本ではトップ5

 一方、日本ではMM総研、ITRなどの調査会社がRPA市場シェアの調査を行っている。ただし、最新のデータは20212月時点では、20201月に発表された1年以上前のものしかないため、知ることができるのは少し前の情報となる。日本では、日本独自のプレイヤー2社が上位に入っているため、Automation Anywhereはトップ5内に入っているという状況である。顧客レビューベースは、ITreviewのデータが利用できる。ITreviewは最新の2021年冬の評価が利用できる。状況としてはトップ3に入っている。

 

他のツールと比べたときの特長は?

 Automation Anywhereを他のRPAツールと比べたときに、特長として際立つ点を3点挙げる。

 

最先端の人工知能と連携が可能

 Automation Anywhereの特長としてまず挙げられるのが、最先端のAIを組み込んでおり、AIを使った賢い自動化が可能になる。具体的には、非定型帳票をデジタル化するときに役立つIQ BotRPAのシナリオの中からサードパーティのAIスキル (AmazonMicrosoftGoogleIBMなど)を直接呼べる、自動化対象プロセスを自動で洗い出しボットを自動作成するDiscovery Bot、ユーザーインターフェイスの制御がしにくい場合にも使えるAISenseなど、随所にAIを取り入れた機能が使われている。

 

堅牢なサーバ機能やトリガーなどの特徴的機能

 Automation Anywhereにはデスクトップ型RPAとして運用するしくみがないのが特長である。つまり、サーバ型RPA専用である。前のバージョンv11では、Enterprise Client上だけで動作するような機能もあったが、A2019になって、必ずサーバを介すようになった。

 サーバ機能は、組織的なRPAの展開には必須の機能であり、ユーザー/ロール管理、デバイス管理、リモート実行やスケジュール、状況のレポートなど、複数部門で運用する際の管理・セキュリティ・コンプライアンス機能に加え、安全なパスワード管理、改ざんできない実行履歴の管理など、監査の際に必要になってくる情報も網羅される。

 また、トリガーと呼ばれる、デスクトップPC上のファイル/フォルダー変化、ウィンドウ変化、メール受信、キー入力などの特定のイベントが発生した場合にボットを開始する仕組みで、大変重宝する。一般的なRPAでもループを組んで待機状態にしておけば同様のことができるのだが、そのためにロボットのライセンスをひとつ消費してしまうことになり、ライセンスを消費しないトリガーは利便性が高い。その他のカスタムトリガーをSDKで作成することも可能だ。

 

無料版のCommunity Editionがある

 最後はCommunity Editionと呼ばれる、「スモール ビジネス」の条件に当てはまるユーザーであればA2019の最新版を、期限なしで無料で使い続けることが可能だ。「スモール ビジネス」の条件とは、1) (物理および仮想を含む) マシン台数が 250 未満、2) ユーザー数が 250 未満、3) 年間収益が 500 万ドル未満のすべての要件に該当する企業のことである。使えるアカウントは1アカウントのみ、組織内のマシン 5 台以内、IQ Bot を使用して処理/アップロードできるのは、月に 100 ページまで、サーバ機能はほとんど使えない、テクニカルサポートは使えずコミュニティサポートのみという制限がかかるが、その他の開発機能や有人型実行機能は利用できるため、主に一人で使うには十分利用価値があるだろう。

 

最新バージョンAutomation Anywhere Enterprise A2019の紹介

 ここからは、最新版のA2019について、機能コンポーネント単位で簡単な特長の解説をしていく。A2019201910月に登場してからほぼ毎月新しいビルドがリリースされており、クラウド版の利用が推奨されている。また、データセンターは日本で購入すると日本にホストされるのもうれしい。A2019は主に5つの機能コンポーネント「Enterprise」「IQ Bot」「Discovery Bot」「AARI」「Bot Insight」に分かれている。以下、それぞれの解説をしていく。

 

EnterpriseRPA本体

 一番基本的な機能コンポーネントは、やはりRPAである。RPAは「Enterprise」といわれる。(Community Editionの場合は「Community Edition」がRPAの名前になる) A2019ではフロー形式とリスト形式の両方の表示が可能となっており、少ないステップの場合はフロー形式、ステップが多くなって全体を見渡したくなってきたらリスト形式と、使い分けることができる。両者は完全に同じ表現を異なる表示にしているだけなので、完全互換である。

 ロボットの開発エディタの中でシナリオの中のひとつのアイコンは「アクション」と呼ばれるが、既定で使えるアクションの数は20212月現在のCommunity Editionで約740、トリガーは8種類が実装されている。これらは分類と検索により適切なものを探す方式になっている。一番多いのはExcel系のアクションで約110個ある。IQ BotOCR、画像認識やAWS / Microsoft / Google / IBMといったAI系の機能を直接呼べるアクションや、Office 365Google Workspaceなどのクラウドサービスと連携するアクション、SAPWebサービスとの連携アクションなどが利用できるのが特長である。アクションはSDKで開発して追加したり、日本語処理の追加アクションなどはインターネット上のマーケットプレイスであるBot Storeで追加ダウンロードしたりできる。

IQ Bot―準定型帳票にも対応するマルチエンジンOCR

 業務自動化の適用範囲を広げていくにあたって紙業務のデジタル化を行うことがほぼ必須となってくるが、それを行うのがIQ Botである。OCRソフトウェアは、さまざまなものが市場に出ているが、すべての帳票に対応できるOCRは存在しないため、業務の種類によってOCRを使い分ける必要がある。IQ Botの特長は、請求書、発注書など、項目は業界でほぼ決まっているが他社が書式を決めるために自社でコントロールできない準定型帳票を得意とする。

 OCRエンジンはAutomation Anywhereの自社開発ではないが、ABBYYMicrosoftGoogleTegaki等から選択することができる。加えて、明細行が可変だったり複数ページにまたがるものも認識することができるなどの特長がある。IQ BotCommunity Editionでも一部の機能が無料で利用可能だ。

 

Discovery Bot―プロセスディスカバリー

 プロセスディスカバリーというと聞きなれない人もいるかもしれないが、自動化対象業務を特定するためのツールである。まずエンドユーザーのPCで操作を記録する機能を使い、普段の業務を手動で実施してもらったものの記録をサーバに取得する。これを何回か行ったものから、AIが自動分析を行い業務手順のパターンや自動化優先度の推奨をしてくれる。管理者が対象を選択すると、それを元に自動でロボットを作成してくれるという仕組みだ。多くの場合、RPAを導入してからしばらくたつと、自動化対象業務が見つけづらくなってくるが、そのようなときにDiscovery Botを使うと、RPAプロジェクトの次のステップを計画する際に大いに参考になるだろう。Discovery BotCommunity Editionで一部の機能が利用可能だ。

 

AARI―デジタルアシスタント

 AARI (アーリ、Automation Anywhere Robotic Interface)は、人とロボットの間を仲介するデジタルアシスタントである。ロボットを直接利用するにはある程度の技術の習得やトレーニングが必要になるため、組織の中で扱える従業員の数は限られてくる。しかし、Web、チャット、音声指示、モバイルなどのより簡単なデジタルアシスタントのインターフェイスを通してであれば、自動化業務にかかわっている組織以外のより多くの従業員が技術の習得なしで利用することができるようになる。

 AARIには、Web、チャット、音声指示、モバイルのオプションがあり、ロボットと人間との間のコミュニケーションの方法、頻度、応答時間の上限などによって、使うべき種類を選ぶことになる。請求書/発注書/契約/保険業務処理と承認プロセス、帳票起票、コールセンター、サービスインシデント起票など、既存の業務システムとのやり取りのより簡単なインターフェイスとしても利用できる。

 AARIもCommunity Editionで一部の機能が利用可能だ。

 

Bot Insight―データの可視化と分析

 最後の機能コンポーネントはBot Insightと呼ばれるデータの可視化/分析ツールだ。いくつかのデータをグラフやレポートにして状況を一目で把握できるようにしてくれる。主に、RPAの運用状況データと、RPAのロボット内で処理したデータの集計の2つの用途で使用される。

 運用状況については、ロボットの稼働状況、実行中、実行完了、エラーの数や、節約時間、ROIなどの情報を自動的に計算してくれるため、組織内の関係者への成果の報告やプロジェクトの進捗管理に利用することができる。

 ロボット内で処理したデータについては、ロボット内で利用する特定の変数で処理されるデータを集計することが可能であり、処理内容により集計されていくビジネスの状況 (たとえば売り上げの集計など) などをリアルタイムで把握することが可能になる。

 Bot InsightもCommunity Editionで一部の機能が利用可能だ。

 

どれくらいの費用がかかるのか?

 Automation Anywhereには直接商流と間接商流が存在する。前者はAutomation AnywhereWebからの直接購入やAutomation Anywhereの担当営業からの購入、後者は販売パートナーからの購入となる。前者の場合は、セルフサービスでWebから購入できるクラウド版の最小構成 (RPA機能で管理者1、開発者1、無人型実行ユーザー1) の「Cloud Starter Pack」が年額$9,000から利用できる。これはサーバ型RPAの構成の中では最も安い構成の部類に入る。また、30日間の無料トライアルもあるため、購入前に機能の評価をすることも可能である。無料トライアルはCommunity EditionではなくEnterprise A2019の機能をベースとしており、使える機能がRPA開発者の一部の機能に限定され、管理機能や高度な機能が使えずクラウドのみの利用となるが、テクニカルサポートを利用することができる。

 ただし、RPAは組織的に展開をする場合、RPAツール以外のノウハウが必要 (8割がツール以外ともいわれる) になり、通常は販売パートナー経由で購入するのが得策であろう。価格は各販売パートナーに問い合わせる必要がある。

 

まとめ

 以上がAutomation Anywhereについての20212月時点での最新情報となる。組織全体にRPAを展開して大きな成果を得るためのサーバ型RPAの導入においては、選択肢の筆頭に来るRPAツールのひとつとなるだろう。RPAについては、日本でもすでに半分以上の企業が導入、もしくは導入検討をしているといわれており、また、組織的なRPAの活用は、デジタルトランスフォーメーション (DX) の起爆剤に成り得るため、技術や社会情勢、ビジネスモデルが変化する状況の中で、企業文化を革新するためのツールとして導入を検討してみるのもありだろう。