2020年下半期は、新型コロナ感染症の企業への影響が続くものの、Gartnerなどの米国や日本の調査会社が「RPAが幻滅期の底を抜けて普及期に入った」ことを宣言し、RPAへの投資も活発であることを伺わせた。この記事では2020年下半期のRPA業界の概況と、主要RPAベンダー6社 (WinActor、UiPath、BizRobo!、Automation Anywhere、Blue Prism、Microsoft Power Automate)の動向を中心にお伝えする。
概況
まずは調査会社が2020年下半期に発表しているRPA関連の調査を総括してみよう。
Gartnerが2020年9月に発表した『日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル:2020年』にて、幻滅期にあるロボティック・プロセス・オートメーションは谷底を脱し、本格的な普及期に移り始めたと発表した。また、同社が9月に発表した世界のRPA市場の動向では、新型コロナ禍でもRPA市場は2024年まで2桁の成長率で拡大すると予測している。また、2020年11月に発表した「2021年の戦略的テクノロジのトップ・トレンド」の中でも、引き続きハイパーオートメーションがトレンドになると予測されている。また、同社が日本で2020年4月に行った調査でも新型コロナ禍で先行き不透明な状況にもかかわらず、7割を超える企業がRPAの取り組みを縮小することなく当初の予定どおり推進する、という回答が得られているという。
ITRが2020年11月に発表した「IT投資動向調査2021」でも、企業のIT投資は新型コロナの影響を受けて2019年度と比べて2020年度、2021年度と減速傾向が続くもののプラスは維持し、リーマンショックの影響を受けて大幅マイナスとなった2009年度とは傾向が異なるとしている。2021年度に新規に導入可能性のあるソリューションや投資増減指数がプラスになっているソリューションでも、RPAは上位に来ている。
2020年12月になって発表された矢野総合研究所の調査ではRPAはブームを終えて、本格的な利用拡大フェーズへ進んでいるとみている。日本の市場規模も前年対比37.6%に高い成長を続けるとみている。
- 日本におけるRPAは幻滅期を抜けて普及が進む
- Gartnerが2021年の世界におけるRPAソフトウェア売上高が20億ドル近くに達すると発表
- ハイパーオートメーションとは?Gartnerは2021年も引き続き戦略的トップトレンドになると予測
- RPAは2021年度も投資継続予測、コロナ対応とデジタル・シフトが製品・サービス投資を牽引、「IT投資動向調査2021」
- 矢野経済研究所が2020年度RPA市場調査を発表、市場規模は前年度比26.6%増の532億円と予測
このように、どの調査会社でもRPAは2021年も引き続き導入が進むと予測されている。
また、2020年上半期にはマイクロソフトがPower Automate Desktopのプレリリース版を公開、IBMがWDG Automationの買収を発表するなど、大手ITベンダーのRPAへの参入も活発になってきている。
RPA6大ベンダーにも様々な動きがあった。
WinActor
WinActorは.NET Frameworkで完全にリメイクしてユーザーインターフェイスも一新させたVer. 7.xの新バージョン「7.1」「7.1.1」を立て続けにリリースした。上級プログラマ向けシナリオエディタを搭載し、「WinActor Scenario Script」という独自言語を搭載するなど、独特の路線を打ち出している。また、多言語対応を進め、海外市場にも打って出ようという意気込みが感じられる。2020年のはやりとなったデジタルアシスタントの実装も「WinActor Brain NaRuKami」という形でシナリオを絞る代わりに簡単に実装できるようにしている。また、顧客数が5,300社を超えるまでに急拡大し、年始の時点では4,500社であったので、9カ月間で約1,000社増えたことになる。
- 2020/8/24: RPAツール「WinActor®」の新バージョンVer.7.1.0を販売開始
- 2020/9/15: RPA「WinActor®」の拡張機能チャットサービス「WinActor Brain NaRuKami®」を販売開始
- 2020/9/30: “現場フレンドリー”なRPA「WinActor®」多言語対応し、2020年10月1日から国内外に向け販売開始
UiPath
UiPathは2020年下半期にも新製品を立て続けにリリースしている。AI機能を組み込むための「UiPath AI Fabric」、デジタルアシスタント機能に相当する「UiPath Action Center」、そして独自のAI-OCR機能にあたる「UiPath Document Understanding」である。
BizRobo!
BizRobo!は、「BizRobo! Lite」「BizRobo! Lite+」と呼ばれるBizRobo! Basicの廉価版を提供開始し、サーバ機能をよりユーザーの手が届きやすいようにした。あわせて「BizRobo! as a Service」と呼ばれるクラウドサービス版も提供開始している。
- 2020/8/5: RPAテクノロジーズ、究極のRPAツール「BizRobo! Lite」「BizRobo! Lite+」提供開始
- 2020/8/31: RPAテクノロジーズ、クラウド環境上で気軽に利用できるクラウド型RPA 「BizRobo! as a Service」(B!aaS)の提供開始へ
Automation Anywhere
Automation Anywhereもデジタルアシスタント機能の「AARI」を提供開始した。また、毎月新機能を搭載したマイナーリリースを提供している。
Blue Prism
Blue Prismも2020年1月に発表したクラウドサービス版のRPA「Blue Prism Cloud」の日本市場への展開を開始した。Blue Prism Cloudには、「Blue Prism Cloud Hub」と呼ばれるカスタマイズ可能なダッシュボード、「Wireframer」と呼ばれるプロセスデザインツール、「Blue Prism Cloud Channels」と呼ばれるビジネスアプリケーション、電子メール、SMS、チャットボットとの連携機能、「Blue Prism Cloud Interact」と呼ばれる有人自動化をウェブ上で実現するデジタルアシスタント、「Blue Prism Cloud IADA」と呼ばれるワークロード自動調整機能などを提供開始した。
Microsoft Power Automate
マイクロソフトも2020年9月に年次の技術者向けカンファレンスで、デスクトップベースのRPA開発ツール「Microsoft Power Automate Desktop」のプレビューリリースを発表した。5月に買収したSoftomotive社のWinAutomationを取り込んだ機能を入れ、リブランドした。12月10日に正式リリースし、あわせて適用対象業務を洗い出すためのプロセスマイニングツールである「Process Advisor」のプレビューを発表している。
- 2020/9/23: マイクロソフトがPower Automate Desktop を発表
- 2020/12/10: マイクロソフトがPower Automate Desktopを正式提供開始、適用対象業務を発見するためのProcess Advisorをプレビュー提供
このように、各社とも基本部分のRPA機能の強化に加えて、ハイパーオートメーションの実装に必要な各種機能や、クラウドの機能を固めてきている。
これらのベンダーの他にも、様々な新規ベンダーが市場に参入してきている。
RPA Hackが2020年12月に発表した『RPAサクセスカオスマップ2020』では、50にもおよびRPAツールが掲載されている。
ユーザーにとっては短期的には様々な選択肢が生まれそうで歓迎すべきことであるが、2021年にかけてはRPA市場における淘汰や統合の動きも加速していく可能性があるだろう。